8-4. 動物被食散布
8-4-1. 糞に含まれる果実・種子

鳥や哺乳類の糞には、しばしば植物の果実・種子が含まれている。

ムクノキムクノキ
テン(?)の糞と入っていたムクノキ(ニレ科|アサ科)種子

ヤマザクラ・クサイチゴ
大学内の路上やコンクリートの上では、(おそらく)テンの糞をよく見かける。5月終わり頃はヤマザクラとクサイチゴの果実がたくさん入っている。

鳥の糞山頂の展望台にあった鳥の糞には、さまざまな植物の種子が入っていた。おそらく複数回分。

タブノキ・タヌキ溜糞タヌキのトイレ(溜め糞)には、糞に混じっていたいろいろな種子が溜まっている。7月中旬に常緑樹林内にあった溜め糞には、おびただしい数のタブノキの種子が含まれていた。
8-4-2. 糞散布[endozoochory]の果実・種子
動物被食型散布体

鳥獣に食べられてから糞として排泄されることで運ばれる果実・種子の多くは、次の3つの部分からできている(外側→中心の順)。

  1. 可食部: 動物の食物となるようなやわらかくて糖分や脂肪分に富んだ組織。果実の場合は、果肉[pulp]と呼ぶ。可食部の外側は目立つ色になっていることが多い。また、ミカンのように丈夫な外皮に包まれている場合もある。
  2. 保護部: 動物の咀嚼や消化から胚を守る硬い殻
  3. 胚や貯蔵組織

糞散布の果実・種子は、さまざまな特徴で分類されるが、最も重要なのは可食部と保護部が花のどの部分から発達するかだ。

糞散布体の主なタイプ
果実の名称 花被 花托 花托筒
萼筒
子房壁 種衣 種皮
漿果 × 可食部 なし 保護部 上位子房由来
  × 可食部 下位子房由来
ナシ状果
核果(石果) × 可食部 保護部 薄皮として残存
バラ状果 × 可食部 保護部 周位の花由来
イチゴ状果 × 可食部 × 雌しべ複数
(クワなど) 可食部 ×
× 裂開または
非裂開
可食部 保護部
なし 可食部 保護部
下位子房を持つ花や子房周位の花では、子房の回りを花托由来の「つぼ」(花托筒、萼との連続性が強いときには萼筒と呼ぶこともある)が取り巻いている。
ヤマザクラ
ヤマザクラ(バラ科)の果実。黄色から赤を経て黒く熟する。

糞散布の果実・種子は、動物媒花と同様に視覚・嗅覚への信号によって散布動物を誘引している。色は黄・赤・紫・黒紫・黒などさまざまで、特に赤と黒紫~黒が多い。また、黒く熟する果実には、サクラのように途中段階で赤を経るものが多く見られる。主要な散布者の鳥類とサル類(一部)は赤を識別できる。一方、昆虫の多くは赤の感受性が低く、サル以外の哺乳類は赤と緑を識別しにくい。

サル類(サル目; 霊長目)では把握能力に優れた手や爪、立体視に有利な両眼の前面配置など、樹上生活に適した特徴が進化した。また、曲鼻猿類(原猿類)と直鼻猿類が分岐した後に、直鼻猿類の祖先では果実食への適応と考えられるビタミンC合成能力の喪失が起こり、直鼻猿類の3つの系統―広鼻猿類(新世界ザル)と狭鼻猿類、メガネザル類―のうち、広鼻猿類と狭鼻猿類では、赤と緑を識別できる三色型色覚が進化して(他の哺乳類は基本的に二色型)、緑色の葉に混じる赤い果実を識別する能力が高くなった(ただし、広鼻猿の三色型色覚の進化は限定的)。狭鼻猿類はオナガザル類(旧世界ザル)とヒトを含む類人猿に分岐した。

糖分やビタミンに富んだ果肉と鮮やかな色を持つ果実は、品種改良を通じて果物(いわゆる「フルーツ」)や果菜(果実野菜、トマト・キュウリなど)として使われる。農業では、樹木の果実は果物、草の果実は果菜として分類することがあり、そうするとスイカ・メロン・イチゴは果菜に含められることになる。

8-4-3. 漿果(液果)[berry]
ヒヨドリジョウゴ
ヒヨドリジョウゴ(ナス科)。中の種子が光で透けて見える。

子房から果肉ができ、種皮が硬い殻の役目をする

カキノキ(カキノキ科)、ブルーベリー・コケモモ(ツツジ科)、ブドウ(ブドウ科)・トマト・ナス・ピーマン(ナス科)・バナナ(バショウ科)・キウイフルーツ(マタタビ科)・スイカ・キュウリ(ウリ科)、ビワ・リンゴ・ナシ(バラ科)、アボカド(クスノキ科)など。

カキノキ カキノキ
カキノキ カキノキ
カキノキ(カキノキ科)。鮮やかな赤橙色の表面、みずみずしい果肉、硬い種皮を持つ種子と典型的な漿果の特徴を備えている。ゼリー状の果肉が種子を包んでいて、なかなか取れない。この特徴は、カキノキのように大きめの種子を持つ場合は、散布者が果肉だけを呑み込むことを困難にしている点で有利だ。

子房下位の果実では、子房は花托に埋め込まれているため、子房壁と花托の組織が融合して果皮になる。この場合も、ふつうは漿果と呼ぶ。

カラスウリカラスウリカラスウリ
カラスウリカラスウリ
カラスウリ(ウリ科)の果実と種子。柔らかい果肉は種子にまとわりついていて、容易に取れない。種子には両側に飛び出た部分があり、一目で分かる変なかたちをしている。

漿果・液果は可食部に包まれた裂開しない果実の総称として使われることがある。また、漿果・液果のうち、身近で目立つ特徴のあるものに個別の名称がついていることがある。

ナシ状果

下位子房のビワ・リンゴ・ナシ(バラ科)では、果実の断面を見ると花托筒から発達した部分が果肉の多くを占めている。このため、特に「ナシ状果[pome]」と呼んで区別することもある。

リンゴリンゴ
リンゴ(バラ科)の果実断面。先端の凹みには、萼片・雄しべ・花柱が残る。花柱からつながる維管束は、子房室のすぐ外側を走る
ミカン状果

柑橘類の漿果では、子房室の内壁から多数の突起が成長して果汁を貯える袋となる。実際に食べられる部分は、果皮のごく一部からできるので、「ミカン状果」[hesperidium]と呼んで区別することが多い。

ユズ
ユズ(ミカン科)の果実の横断面
8-4-4. バラ状果: 子房周位の花に由来し、子房を取り囲む花托筒(萼筒)が果肉となる
テリハノイバラテリハノイバラテリハノイバラ
テリハノイバラ(バラ科)の花と果実

バラ属・ピラカンサなどバラ科の一部に見られ、「バラ状果」[cynarrhodium]と呼ばれる。果実を割ると、中の空間にまわりの組織から独立した雌しべ由来の部分がある。同じバラ科のナシ状果(ビワ・リンゴ・ナシ)は、「子房がまわりの組織から独立している/いない」を除けば、このタイプと似ているところもある。

8-4-4. 核果または石果[drupe]

子房壁のうち、外側の部分は果肉となり、内側の部分が種子を包む硬い殻となる。種皮は薄い。種子+硬い殻を「」[kernel]という。

ウメ・モモ・サクランボ(ともにバラ科)・オリーブ(モクセイ科)・マンゴー(ウルシ科)など。

カラミザクラカラミザクラ
カラミザクラ(バラ科)の若い果実と断面。種子を取り巻く果皮は、内側の白っぽいところと外側の緑っぽいところに分化しつつある。熟するにつれ、内側の方は硬くなって核になり、外側は果肉になる。

カラミザクラカラミザクラカラミザクラ
熟したサクランボ。果肉が急速に肥るために、球に近い形になる。果肉を取り除いて取りだした核は、未熟なころとほとんど同形同大。断面の右上に種子がついていたところ(胎座)がある。

サクランボ・ウメ・モモ・マンゴーの「タネ」から果肉を完全に取るのは面倒だ。これは、「タネ」=核の組織が果肉とつながっているためだ。本物の種子は核の中に入っていて、核をこじ開けたり砕いたりすればきれいに取れる(モモやウメでは「仁」とか「天神さま」とか呼ばれているもの)。アーモンドもモモ・ウメに近い種類の種子で、「仁」とよく似ている。表面の茶色で筋のある薄皮が種皮だ。

モモモモ
モモモモ(バラ科)の核と2つに割ったところ。中にアーモンドとよく似た種子が1個入っている。

核の中に複数の種子が入っているものも、決して珍しくない。

センダンセンダン
センダン(センダン科)の果実・核・核の横断面
8-4-6. キイチゴ状果

ナガバモミジイチゴやクサイチゴ、ラズベリー・ブラックベリーなどのキイチゴ類(バラ科)のような、多数の雌しべが核果になった核果の集合果は「筋子」のような外見で、キイチゴ状果と呼ぶことがある。

クサイチゴの実
クサイチゴの実クサイチゴ(バラ科)の熟した果実。透き通った赤い粒が集まっている。粒の1つ1つは、受粉した雌しべが成長したもの。受粉の成功率によって、大きさが違ってくる。赤い粒を拡大すると、残存する花柱が見える。1つ1つがウメ・モモ・サクランボの果実(核果)に相当するもので、赤くて透明な果肉の中に核が透けて見える。受粉しなかった雌しべも回りにへばりついている。

クサイチゴの実粒がついている部分(花托)は、すかすかですきまだらけ。

8-4-7. イチゴ状果

イチゴ・ヘビイチゴ(バラ科)などで、キイチゴ類と同様に花は雌しべをたくさん持っている。果肉は花托がふくらんでみずみずしくなったもので、果肉の表面についている多数のゴマ粒のようなものが子房だ。

ヤブヘビイチゴヤブヘビイチゴ
ヤブヘビイチゴヤブヘビイチゴ(バラ科)の果実

イチゴイチゴ
オランダイチゴイチゴ
イチゴの花と未熟な果実。雌しべがぎっしりと花托を覆っている。このあと、花托が成長して果肉となり、雌しべは花托に埋め込まれたようになる。

イチゴオランダイチゴ
イチゴの果実と表面。くぼみにある粒が子房に由来する狭義の果実。花柱も残る(黒い筋)。受粉した狭義の果実はオーキシンを出して周辺の花托の成長を促進する。
8-4-8. 花被が可食部に、子房全体が硬い殻になる

受粉の後も花被が残って厚くなり可食部になる。クワ(クワ科)・イチジク(クワ科)・ツルムラサキ(ツルムラサキ科)・ドクウツギ(ドクウツギ科)など。

ツルムラサキツルムラサキツルムラサキツルムラサキツルムラサキ
ツルムラサキ(ツルムラサキ科)。

マグワマグワ
クワ(マグワ・クワ科)の果実。たくさんの花が集まった花序からできる多花果。黒ずんだ筋は花柱のなごり。雌花を取り囲む4枚の花被片がふくらんで赤く熟し、粒状の可食部となる。

イチジクでは、つぼのような花序の内側に多数の花がついている。つまり、イチジクの実と呼ばれるのは一つの花序、中の食べる粒々の一つ一つが花で、つぼ状の部分の内側もやわらかい可食部となっている。日本で栽培しているイチジクは果実が熟さないタイプのものだが、中近東などから輸入されている「乾しイチジク」は、果実が熟しているせいでじゃりじゃりとした歯応えがある。

8-4-9. 種子から可食部が発達するもの

果実をこじ開けると、中に可食部をまとった種子が詰まっている。

熟すると果皮が裂開して種子(と可食部)が露出することが多いが、ムベ(アケビ科)のように熟しても開かないものもある。熱帯果実のレイシ・ランブータン(ともにムクロジ科)・パッションフルーツ(トケイソウ科)・マンゴスチン(テリハボク科)・ドリアン(アオイ科)も非常に堅い果皮におおわれたまま熟する(サルのような哺乳動物がこじ開けて食べるのではないかと言われている)。

  1. 種子の付け根の組織が可食部となる(種衣[aril])。マサキ・コマユミ・アケビ類・レイシ・パッションフルーツ・マンゴスチン・ドリアンなど。種衣は平たく伸びて種子を覆うことが多いが、裸子植物のイヌマキでは、種子を覆わずにふくらむ(近い仲間のイチイでは種子を覆っている)。
  2. 種皮の最外層が可食部となる。果肉同様にやわらかくなる場合は、肉質種皮[sarcotesta]という。ザクロ・トベラ・モクレン類・ランブータンなど。裸子植物のソテツやイチョウもこのタイプに属する。ゴンズイ・ナンキンハゼ・ジャノヒゲなどは、種皮の最外層は薄くて肉質種皮というほど柔らかくはないが可食部となる。
コマユミ
コマユミ(ニシキギ科)の果実。マサキと同じ属で、同じように4つの子房室があるが、多くは1つか2つだけが成長して、熟すると種子がはみ出てくる。

トベラ
トベラトベラの実。熟するとぱっくりと開いて、赤くてねばねばした納豆のような種子が露出する。

ランブータンランブータン
ランブータン(ムクロジ科)の果実と断面。種子の最外層が半透明の可食部となる

ザクロザクロ
ザクロ(ザクロ科|ミソハギ科)の果実では、子房室の複雑な配置を反映して、入り組んだ裂け目が入る。
8-4-10. 貯食散布

ドングリ(コナラ属の果実の総称)・ブナ・シイ(ブナ科)やクルミ属(クルミ科)など比較的大型の堅果(種子1個が硬い殻に覆われた果実)では、食物を地中に貯える習性を持つ動物(ネズミ・リス・カケスなど)によって貯蔵場所に運ばれ、食べ残されたり食べ忘れられた果実がその場で発芽することがある(貯食型散布)。

ミズナラ
発芽したミズナラ(ブナ科)のドングリ

狩猟採集生活をしていた人々の中には、地中のネズミの巣を掘り当てて貯蔵された果実を集める技術を持つ者がいた。このような技術は、シベリアでは18世紀まで伝承されてきたという。
8-4-11. アリ散布[myrmecochory]

比較的小型の果実・種子の中には、可食部が外側を覆うのではなく、果実・種子の本体に可食部が付着しているという感じになっていて、アリの巣に運び込まれ、そこで可食部を切り離されて、本体は巣のまわりや巣の中に放棄されるものがある。このような散布はアリ散布と呼ばれる。シソ科の一部・スゲの一部などでは果実に、スミレ・スズメノヤリ・キケマンなどでは種子にアリ散布用の可食部がついている。

スズメノヤリスズメノヤリ
スズメノヤリ(イグサ科)の果実は3つに割れて、3つの種子が露出する。種子のつけねには、白い可食部(附属体)がある。
ムラサキケマン
ムラサキケマン(ケシ科)。熟した果実は瞬間的に裂けて黒い種子を弾き飛ばす(右上)。種子には白い小さな附属体がついていて(右下)、地上に落ちてからアリによって持ち去られる。
ムラサキケマンムラサキケマン
カタクリカタクリ
カタクリ(ユリ科)。果実は3つに割れて、褐色の種子を露出する。果皮はほとんど白(写真では、ストロボ光の反射による青い偽色が出ている)。

カタクリカタクリ
種子の一端にはやや色が薄い附属体がついている。附属体目当てのアリが、果実から種子を運び出したり、地面に落ちた種子を巣に運び込む。
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