7-1. 被子植物の有性生殖
7-1-1. 有性生殖生物の生活環
世代交代

多細胞の有性生殖生物では、次のような生活環[life cycle]が繰り返される(世代交代)。

(1) 受精[fertilization]

ゲノム1組("n"と略される)を持った雄性配偶子(♂配偶子)[male gamete]または精細胞[sperm cell]と、やはりnを持った雌性配偶子(♀配偶子)[female gamete]または卵細胞[egg cell]とが融合して、ゲノム2組("2n"と略される)を持った受精卵ができる。

(2) 複相の多細胞体(複相世代)=胞子体

受精卵が体細胞分裂を繰り返して2nを持った多細胞体となる。植物では胞子体[sporophyte]と呼ぶ。

タマネギ染色体
タマネギ染色体タマネギ(ユリ科|ネギ科)の根端の中期染色体。タマネギの複相世代(胞子体)の細胞は16本の染色体を持つ(このことを、「2n=16」と表現する)。左は、くびれ(動原体)が中央にあるもの→端近くにあるもの、の順に並べたもので、「形が良く似た染色体の対×8」から構成されていることが推測できる。対になった染色体のうち、1つは母親から胚珠を通じて、もう1つは父親から花粉を通じて受け継いだものだ。

(3) 減数分裂[meiosis]

胞子体の一部の細胞が減数分裂をする。減数分裂の初めに、対になった染色体の間でつなぎ換えが起こり、父親からの染色体と母親からの染色体が混じり合う。1個の2n細胞が減数分裂すると、4個のn細胞(胞子[spore])ができる。

(4) 単相の多細胞体(単相世代)=配偶体

胞子が体細胞分裂を繰り返してnを持った多細胞体となる。植物では配偶体[gametophyte]という。配偶体の一部の細胞が雄性配偶子と雌性配偶子になる。

このように受精と減数分裂を通じて単相(n)世代と複相(2n)世代を繰り返すこと(世代交代)によって遺伝的な組み替えが行われる。

7-1-2. 生活環の多様性
生活環

右の図は、多くのシダ類などに見られる生活環だ。上半分が2n世代、下半分がn世代で、円/楕円は単細胞体、六角形は多細胞体を示す。シダ類では配偶体は「前葉体」[Prothallus]と呼ばれる。

植物に見られるさまざまな生活環のうち、胞子母細胞・胞子・配偶体が雌雄に分かれず1種類しかない(同型)このタイプは雌雄の分化という点では最も単純だ。

植物全体では、各段階で次のように雌雄が別々になる生活環がみられる。

  1. 胞子母細胞・胞子・配偶体が大小/雌雄に分かれる
  2. 受精卵・胞子体が雄と雌に分かれる→雄個体と雌個体
グループ 胞子母細胞・胞子 雌性配偶体 雄性配偶体 胞子体
コケ植物の多く 同型 雌性配偶体 雄性配偶体 配偶体上
シダ植物 両性前葉体 雌雄同株
異型(ふつうは大小) 雌性前葉体 雄性前葉体
種子植物 胚嚢 花粉粒 雌雄同株/異株
生活環

種子植物とシダ植物の一部では、胞子にも♀胞子(ふつう大形なので大胞子[megaspore])と♂胞子(ふつう小形なので小胞子[microspore]とがある(右図)。大胞子から雌性配偶体、小胞子から雄性配偶体ができる。種子植物では、雌性配偶体=胚嚢、雄性配偶体=花粉粒で、胞子体につく有性生殖器官に組み込まれている。

生活環

種子植物の中には、さらに、胞子体が雄と雌に分かれるものもある(雌雄異株)。♀胞子体(雌個体・雌株)は大胞子を作り、♂胞子体(雄個体・雄株)は小胞子を作る。

生活環

配偶体と胞子体の片方しかない多細胞生物もある。藻類の一部(褐藻のヒバマタ目・車軸藻類など)では配偶体がなく、減数分裂でじかに(胞子を飛ばして)配偶子(卵と精子)が作られ、受精して受精卵となる(胞子体は雌雄同体がふつう)。多細胞動物も同様で、個体(胞子体という言葉は使わない)は雌雄に分かれている(雌雄異体)が多いが雌雄同体もみられる。

生活環

逆に、藻類には、胞子体がなく受精卵が減数分裂をして胞子をつくるもの(右図)もある。

単細胞生物では多細胞体(配偶体と胞子体)をつくる時期がなく、雄と雌のかたちの違いもない。受精→減数分裂の過程が見られるものもあるが、多くは、nの細胞が体細胞分裂を繰り返すことで増殖する。

胞子体と配偶体の大きさ
マキノゴケマキノゴケ(コケ植物・苔類)の青黒く平たい配偶体(葉状体)と、そこに形成されているマッチ棒状の胞子体(マッチ棒の頭が胞子嚢)。

藻類では両方がほとんど同じ形・大きさのものもある(アオサ類など)が、陸上植物では胞子体と配偶体のどちらかがもう一方よりずっと大きい。例えば、コケは茎や葉のように見える部分は配偶体で、胞子をつくるときだけ、小さな胞子体が配偶体上に形成される。

シダの配偶体は「前葉体」[prothallus]と呼ばれる小さな器官(かたちは平たかったり丸かったりさまざま)で、配偶体上にできた卵が受精して受精卵になった後、大きな胞子体をつくる。

ミゾシダミゾシダ
ミゾシダの前葉体。シダの前葉体は湿った土が露出しているような場所が見つけやすい。前葉体は胞子体と違い維管束や根がなく、細胞層が1層しかなく、透き通った緑色をしている(この写真では、やや暗い緑色に見える)。

種子植物の配偶体はさらに小さく、♀配偶体は「胚嚢」、♂配偶体は「花粉粒」と呼ばれ、有性生殖器官(被子植物では「花」)の中に埋め込まれている。

7-1-3. 花粉粒=種子植物の雄性配偶体
ナベワリナベワリ(ビャクブ科)の若い葯で見られた減数分裂。

葯室内の小胞子母細胞が減数分裂してできた小胞子×4は1つの塊(四分子[tetrad])となっており、まだ小さいつぼみを輪切りにすると、葯の断面には多数の四分子が観察される。

単子葉植物では、ナベワリのように、四分子の4つの小胞子が平面的に配列することが多い(ヤマノイモ科のような例外もある)。これに対して双子葉植物では、シャク・オオキンケイギクのように小胞子が四面体状に配置することが多い。

シャクシャクシャクシャク
シャク(セリ科)の花粉形成過程。花粉母細胞→減数分裂→未成熟な花粉→成熟した花粉。

オオキンケイギク
オオキンケイギク(キク科)の花序の一部(断面)。外側(画像では左側)から順に咲いていくので、花粉の発達の段階を順に見ることができる(下の画像)。順に、花粉母細胞形成→花粉母細胞→減数分裂→花粉(未成熟)。葯壁内面の濃く染色された細胞層はタペート層[tapetum]といい、花粉形成の各段階で大きな役割を果たす。
オオキンケイギクオオキンケイギクオオキンケイギクオオキンケイギク
裸子植物では、葯に当たるもの(小胞子の入っている袋=小胞子嚢[microsporangium])が小さな葉についていて、その葉(小胞子葉[microsporophyll])が集まって房のようになっている。
花粉形成
被子植物の小胞子・雄性配偶体形成の模式図。小胞子母細胞(1)から減数分裂で小胞子4個の塊=四分子(2)ができ、ばらけたそれぞれの小胞子(3)が細胞分裂と花粉壁形成を経て2細胞または3細胞の雄性配偶体=花粉粒(4)となる。柱頭上で発芽した花粉粒(5)から伸びる花粉管は、花粉管核と2個の精細胞を含んでいる。

時間がたつにつれ、四分子はばらばらになり、小胞子は殻(花粉壁)で覆われるようになる。小胞子は殻の中で少しだけ細胞分裂をして、裸子植物では2~数細胞、被子植物では2細胞か3細胞(種類によって決まっている)の雄性配偶体になる。雄性配偶体は(雌性配偶体もそうだが)、一つの大きな細胞の中に他の細胞があるという変わった構造をしている。花粉壁で覆われた雄性配偶体を「花粉粒」と呼ぶ。

ウマノアシガタ
ウマノアシガタウマノアシガタの成熟した葯の断面と花粉粒。花粉粒の中には2つの細胞核が見える。

花粉粒は植物の種類によってさまざまな全形・サイズ・発芽口の特徴・表面パターンを示す(→花粉粒)。また、花粉壁はスポロポレニンという耐久性の高い物質でできていて、地層の中で分解されずに残る。このことを利用して、地層の中の花粉の組成を調べ、過去の植生を推定することができる。

シナレンギョウシナレンギョウ
コブシヤマモモ
上左・上右: シナレンギョウ(モクセイ科)の三溝粒
下左: コブシ(モクレン科)の単溝粒、下右: ヤマモモ(ヤマモモ科)の三孔粒


ツツジ(オオムラサキ)ツツジ(ツツジ科)の花粉四分子。ツツジ類などでは小胞子の四分子がばらけないまま花粉四分子となり送粉されるため、成熟した花粉でも四分子の配列や発芽口の位置が分かる。
7-1-4. 胚嚢=種子植物の雌性配偶体は胚珠に内蔵されている
胚珠

種子植物の胚珠は、珠心[nucellus]とそれを取り囲む珠皮[integument]からできている。珠心のまわりの組織が盛り上がり、ちょうどあんパンをつくるときにパン生地であんを包み込むようにして、珠心を包み込む。あんパンのへそと同じで、最後に包み込まれたところには、すきまが残る。このすきまを珠孔[micropyle]といい、(例外はあるが)受精のときに花粉管の入り口となる。

被子植物の胚珠の模式図。1―珠柄、2―ラフェ、3―カラザ、4―ラフェ維管束、5―内珠皮、6―外珠皮、7―珠孔、8―珠心、9―胚嚢

大胞子・雌性配偶体の形成には、さまざまなパターンがあるが、基本パターンでは、珠心の細胞の一つが減数分裂してできた4細胞のうち1個だけが大胞子で、細胞分裂して雌性配偶体になる。減数分裂でできた4細胞が、雄では4個とも、雌では1個だけが生殖に使われるのは多細胞動物と共通だ。

裸子植物・被子植物の一部では、減数分裂第2分裂の1つが省略され、3細胞しかできない場合がある。被子植物には、第2分裂で細胞壁が形成されず2核の大胞子ができるもの、第1・第2いずれも細胞壁が形成されず4核の大胞子ができるものがある。
胚嚢形成
被子植物の大胞子・雌性配偶体形成の例(模式図)。大胞子母細胞(1)から減数分裂で4細胞ができ、奥の1個が大胞子(2)となる。大胞子は、核の分裂による8核期(3)を経て8核7細胞の雌性配偶体=胚嚢(4)となる。

被子植物の雌性配偶体は、胚嚢 [embryo sac]と呼ばれ、巨大な中央細胞と中央細胞に埋め込まれた数細胞―珠孔近くの卵細胞と助細胞×2と反対側の0~3個の反足細胞―からなる。中央細胞は核を2個持っている(2個が融合して1個になっていることもある)。

ナガミノツルケマンの胚珠
ナガミノツルケマン(ケシ科)の胚珠と胚嚢。胚珠は果皮から突き出した柄(珠柄)の先につき、曲がって下を向き、花粉管の入り口となる珠孔は果皮に接している。左の写真では完成した胚嚢が見られる。右上に大きく黒い3つの反足細胞、その下に極核、珠孔近くに卵細胞と助細胞がある。珠柄の中を、果皮の維管束から枝分かれした維管束が通っている。右の写真は形成途中の胚嚢で、8個の核があるうち、5個がはっきりと見え、残る3個はやや焦点からはずれている。

裸子植物の雌性配偶体は多数の細胞になって胚珠の大部分を占める。複数の造卵器(卵細胞とそれを囲む数細胞)ができ、残りの組織は受粉・受精の後も種子の貯蔵組織としてはたらく(ギンナンの食べる部分はほとんどが雌性配偶体だ)。

7-1-5. 胚珠と種子

名称の通り、被子植物の胚珠は、雌しべの中に入っていて、外界からは隔てられている。裸子植物でも、胚珠が外から丸見えというよりはある程度は隠されているものが多いが、雌しべはもっと完全に胚珠を包み込んでいるので、花粉管は雌しべの柱頭や花柱の組織の間を通り抜けなくては珠孔に入れない。

イチョウでは胚珠の上半分が露出している。ソテツでは大胞子葉、球果類(マツやスギなど)では芽鱗と苞鱗に覆い隠されており、ある程度は外から保護されている。イヌマキは胚珠が裸でついているように見えるが、実際には胚珠の周りを薄皮が覆い、珠孔だけが袋の口から顔を覗かせている。

珠孔に花粉管の先が入ると、そこから2個の精細胞が胚嚢に入り、そのうち1個が卵と融合する。もう1個は中央細胞の核と融合する。受精卵は細胞分裂をして胚に発達し、受精した中央細胞は細胞分裂をして内乳(内胚乳)[endosperm]となり、胚乳(種子の貯蔵組織)としてはたらく。このように受精が2カ所で起きること(重複受精[double fertilization])、受精でできた2つの細胞が両方とも組織に発達するのは被子植物の特徴だ。裸子植物にの一部でも重複受精が見られるが、受精卵の方だけが組織に発達する。

珠心の組織が胚乳となる場合や(スイレン・アカザなど; このような胚乳を「外乳」(外胚乳)[exosperm]と呼ぶ)、あるいは子葉が貯蔵の役割をするもの(キク科・マメ科など)もかなり多い。

ナガバタチツボスミレ閉鎖花の胚珠
ナガバタチツボスミレ(スミレ科)の受精後の胚珠。珠孔近くの黒い塊状のものが胚、その上の大きな多核細胞が内乳だ。被子植物の内乳は、このようにまず核だけが続けて分裂し、ある程度核の数が多くなったあとで核と核との間に細胞壁ができることが多い。

ナズナ
ナズナ(アブラナ科)の成長途中の種子の縦断面

ナズナ
ナズナ上の図の一部の拡大。ハート形の胚と胚につながる細胞列(胚柄)は、ともに受精卵から発達する。多数の核を含む内乳は、ナズナの場合、種子が熟するまでに消えてしまう。

種子は全体を種皮におおわれているが、胚珠から引き継いだ2つの構造、珠孔と珠柄の取れた痕(へそ[hilum])が残っている。大多数の種類では、珠孔とへそは隣り合っている。

オニバスオニバス
オニバス
オニバス(スイレン科)の種子。ほぼ球形で、深いオリーブ色の堅く厚い種皮が胚と胚乳を包む

オニバスへそ(左側の楕円形)と珠孔(右側の円形)

種子の大きさ・形、また、表面のパターン(細胞の形・色・突起)は、きわめて多様で、種類の判別に役立つことも多い。


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