6-9. 自家送粉と他家送粉
6-9-1. 自動同花送粉は最も確実かつ低コスト

ほぼ自動同花送粉のみを行う花は、次のような特徴を持っている。

アメリカフウロアメリカフウロ
アメリカフウロアメリカフウロ
アメリカフウロ(フウロソウ科)の花。咲いたときから柱頭と葯は接している。花粉は少なく(花粉粒が見える)、花冠は小さい。外来種の植物(帰化植物)には、自動自家送粉をする、小さく目立たない花を持つものが多く、アメリカフウロはその例の1つだ。
花粉の量は、胚珠1個あたりの花粉数=花粉数/胚珠数(花粉:胚珠比[pollen:ovule ratio; P:O ratio])で定量化される。いろいろな植物で調べると、自動同花送粉をする花では一桁から数百、自動同花送粉をしない花では数百から数千にのぼる。花粉:胚珠比をP:O比またはP/O比と略すこともある。ただし、ATP合成におけるリン/酸素比と紛らわしい場合もある。

近縁な種で、自動同花送粉を主体に行うものと、他家送粉を主に行うものの両方があるとき、花粉:胚珠比・柱頭・花冠はいずれも前者の方が小さい傾向がある。

イヨフウロ同じ属のイヨフウロ・ゲンノショウコ・アメリカフウロ(フウロソウ科)の花(拡大率を揃えて、相対的な大きさを保っている)。がく片・花弁・雄しべ・雌しべの数と配置は共通(がく片5・花弁5・雄しべ10・雌しべ1)で、胚珠も花1つあたり5個だが、サイズに大きな差がある。
ゲンノショウコアメリカフウロ

ゲンノショウコゲンノショウコ
ゲンノショウコ(フウロソウ科)の花の中心部。アメリカフウロと比べて葯の花粉数が多い。柱頭と葯は空間的に離れているだけでなく、時間的にも分離していて(雄しべが花粉を出し終わりかけてから柱頭が開いて受粉可能になる)、自家送粉が起こりにくくなっている。

有性生殖に使える資源が同じだとして、自動同花送粉は他家送粉よりずっと多数の胚珠をつくることができ、しかもその胚珠のほとんどは受精に成功する。結果的にずっと多数の種子をつけることができる。

自動同花送粉だけなら、花を開く必要すらない。実際に、つぼみのうちに受粉を済ませる(つぼみ受粉)場合もある。

ナズナ
ナズナ(アブラナ科)の花。上と右は2月に撮影。冬のうちに咲く花は、ほとんど開かないうちに受粉して子房が大きくなり始める。春になると開いた花が多くなる。
ナズナ
ナズナ4月に撮影
6-9-2. 自家送粉・他家送粉の得失
同花送粉と他家送粉自動同花送粉(1)と動物媒・風媒・水媒(2)における資源消費量と成功率の関係を示す模式図

動物媒・風媒・水媒のいずれにせよ、送受粉の成功率を高めるには多くの資源を消費する。消費量が多いほど成功率は高くなる。しかし、最上の場合でも自動同花送粉の成功率には及ばない。

虫媒花を例にとると、蜜・花冠・花香などに資源を使って誘引・報酬・選別・制御を行なっても、訪花昆虫が都合よく動くとは限らないし、虫の身体についた花粉が途中で落下したり同個体の花や他種の花の柱頭につく危険がある。また、何らかの理由で訪花昆虫自体が少ない可能性もあるし、近くに同種個体が咲いていなければどうしようもない。

自家送粉だけでよいなら、自動同花送粉という高い成功率と低いコスト(消費する資源)が両立する手段があるから、動物媒・風媒・水媒などの手段は必要ない。逆にいうと、動物媒・風媒・水媒は基本的には他家送粉のためにあり、送粉のためのさまざまなつくりやしくみのほとんどは、基本的には他家送粉に向けたものだ。

花の特徴の多くが他家送粉を指向していることは、18世紀後半~19世紀前半の送粉生態学の先駆者たちによって明らかにされた。そして「どうして自家送粉(確実・低コスト)ではなく他家送粉(不確実・高コスト)なのか」という問題に説明を与えたのは、現代の進化論の礎を確立したダーウィン(Charles Robert Darwin 1809-1882)だった。

ダーウィンが自家送粉の弱点として挙げたのは、自家交配に伴う近交弱勢[inbreeding depression]だった。近交弱勢とは、自家交配でできた子孫が他家交配でできた子孫に比べて生存・成長・繁殖能力が劣るという現象で、成熟する種子の数が少ない、種子の発芽率が低い、芽生えの成長率が悪い、など発生のさまざまな段階で現われる。人間や動物の近親婚で流産や遺伝病を持つ子の頻度が高くなるのも近交弱勢による。

生存・成長・繁殖能力を弱めるような対立遺伝子(有害遺伝子)は、次の2つの条件を満たすことが多い。

  1. ヘテロのときの害×2<ホモのときの害
    しばしば、劣性致死遺伝子の多くのように、ヘテロの時は正常遺伝子のホモと大きな差がなく、ホモの状態のときにだけ大きな影響を及ぼす。これは、ヘテロの状態で有害性が大きい遺伝子は自然選択で急速に消滅するためだ。
  2. 1種類の有害遺伝子に着目すると、集団全体では、ごく少数の個体だけがもっている

各個体は、複数の有害遺伝子をヘテロ接合で持っている。自家交配では、できた種子の平均25%で、親個体の持つ有害遺伝子がホモ接合になる。他家交配の場合、両親が同じ有害遺伝子を持つ確率、それによって交配でできた種子で有害遺伝子がホモ接合になる確率は極めて低い。このように、他家交配では潜在している有害遺伝子の影響が自家交配では表面化して近交弱勢が起こる。

近交弱勢は、同じ種の同じ個体(または同じ集団)で、自家交配由来の種子と他家交配由来の種子を同一条件で栽培・比較することで検出できる。ダーウィンが多数の植物を使ってその存在を示して以来、無数の実証例がある。

草丈(インチ)
他家交配由来 自家交配由来
一対一
(5ペア)
87.5
87.5
89
88
87
69
66
73
68.5
60.5
多数対多数
(1ペア)
最大 77 最大 57
Darwin (1876)が示した例の1つ。マルバアサガオ(ヒルガオ科)の草丈: 自家交配でできた種子と他家交配でできた種子を対になるように(一対一を5ペア、多数対多数を1ペア)まき、最も成長の速い個体が支柱を越えるギリギリまで待って、全ペアの高さを計測したもの。
—Darwin CR. 1876. The effects of cross and self fertilisation in the vegetable kingdom. London: John Murray. p.29 (リンク)

自動同花送粉から完全他家送粉までさまざまな送粉のあり方が存在し、その結果として完全自家交配から完全他家交配までさまざまな交配様式が見られるのは、以下の表のように、どちらにも得失があり、最適な状態が条件によって違うため、と説明される。

成功率 コスト 近交弱勢
自家交配
他家交配
正の相関

自家交配の利点が大きい条件としては、以下のようなものが挙げられる。

環境変動によって生じた生態的な空白地に少数個体が(種子の散布によって)入り込んだ場合は、上の条件を満たす典型例の一つであろう。清水らの研究グループは、シロイヌナズナ(アブラナ科)において、自家交配を可能にする遺伝子(自家不和合性の遺伝子が機能を失ったもの)が、短期間に急速に広がったこと、また、その時期が氷河期が終わってシロイヌナズナが分布を拡大した時期と一致することを、遺伝子分析とシミュレーションにより示した。

自家交配による子孫の中で有害遺伝子を持たない個体が高い確率で生き残る、ということが繰り返されると、有害遺伝子が消失していき、自家交配の難点が解消され、自家交配はいっそう有利となり、より自家交配に適した特徴が急速に進化する。ほぼ自家送粉だけで繁殖する植物は、そのようなプロセスを経て出現したと考えられている。

6-9-3. 閉鎖花: 自動同花送粉専用の花

つぼみ受粉専用の花を閉鎖花[cleistgamous flower]といい、つぼみが開かないまま自動同花送粉を行い、開くことなしで果実が成長する。

ホトケノザホトケノザ
ホトケノザホトケノザ(シソ科)の開放花と閉鎖花。閉鎖花では果実ができるとつぼみの形のままで花冠が脱落する。閉鎖花しかつかない個体も見かける(左)。

Culley & Klooster (2007)によると、過去100年あまりの文献で、被子植物の50科693種の植物が閉鎖花をつけることが報告されている。

Culley TM, Klooster MR. 2007. The cleistogamous breeding system: A review of its frequency, evolution, and ecology in angiosperms. The Botanical Review 73(1):1-30, DOI: 10.1663/0006-8101 (link)
閉鎖花の特徴

閉鎖花とふつうの花(開放花)との間にあまり形態の違いがない場合もある。しかし、多くの種では、閉鎖花は開放花とはっきりとした違いがある。しばしば見られるのは、以下のような特徴だ。

閉鎖花と開放花の使い分け

個体につく花が閉鎖花だけというのはまれで、多くの例では、開放花と閉鎖花が時間的・空間的に使い分けられる。スミレ類(スミレ科)では春わりと早いうちにふつうの花弁が開く花(開放花)が咲き、その後から葉の陰に隠れるように閉鎖花がつく。ミゾソバ(タデ科)では開放花と閉鎖花は並行して咲くが、開放花がかたまって茎の先に咲くのに対し、閉鎖花は地面近くや地中の茎にばらばらにつく。ホトケノザ(シソ科)でも開放花と閉鎖花の両方がつくが、環境条件によっては閉鎖花しかつかないこともある。

ナガバタチツボスミレ閉鎖花
ナガバタチツボスミレ(スミレ科)の閉鎖花。下の写真は通常の花(開放花)。閉鎖花は開放花の短い開花期が終わってから、秋にかけてつくられ、つぼみがふくらまないうちに受粉して果実となる。開放花と違って花柄は短い。

ナガバタチツボスミレ

ナガバタチツボスミレ閉鎖花
ナガバタチツボスミレ(スミレ科)閉鎖花の断面。柱頭と葯が接している。葯の中の花粉はきわめて少数。
6-9-4. 他家送粉→自動同花送粉の花

オオイヌノフグリ(ゴマノハグサ科|オオバコ科)・チョウジタデ(アカバナ科)では、葯と柱頭は互いに離れているが、花が咲いてからある程度時間がたつと葯か柱頭が動いて互いにくっつく。また、ツユクサ(ツユクサ科)では、花がしぼむときに葯と柱頭がくっつく。これらの花はアメリカフウロと違って、大きめの花弁を持ち、オオイヌノフグリとチョウジタデは蜜を分泌する。

オオイヌノフグリオオイヌノフグリ・ルリシジミ
オオイヌノフグリオオイヌノフグリ(ゴマノハグサ科|オオバコ科)の花。4枚の萼・4枚の深い青紫色の花弁(根元でつながって1つの合生花冠となっている)・2本の雄しべ・1本の雌しべで出来ている。咲き始めは葯と柱頭は離れており、吸蜜する昆虫が見られることもある。夕方近く、閉じかけの花では花糸が曲がって葯が柱頭に近づく。

ツユクサツユクサ(ツユクサ科)。早朝に開いた花は、夏の咲きはじめには午前中に、秋になっても昼過ぎには咲き終わる。花弁状の内花被片がしぼみ始め、花糸と花柱はゼンマイのように巻いて、葯と柱頭は花の中心へと引き込まれる。
ツユクサツユクサ

チョウジタデ(アカバナ科)。花は朝に開き、花弁・雄しべのつけね付近から蜜を出す。最初は葯と柱頭は離れているが、午後になって日が傾くころ、雄しべが動いて葯が柱頭にくっつく。
チョウジタデ
チョウジタデ

これらの植物では、資源(花弁や蜜)や時間(開花から自動同花送粉までの時間差)を割いて他家送粉の余地を残しつつ、自動同花送粉も行うことで確実な受粉を行なっている。

6-9-5. 自家送粉・自家交配を避けるしくみ
自家不和合性

自株の花粉が柱頭についても、次の3つのいずれかで止まってしまう。

  1. 柱頭で花粉が発芽しない
  2. 花粉管の伸長が花柱内で生理的に妨げられ、受精できない
  3. 種子が発生の過程で成長を止め、種子流産する

このような性質を自家不和合性[self-incompatibility]という。自家不和合性の植物では、仮に自家送粉が起こっても自家受精、自家交配へとすすむことができない。逆に、自株の花粉によって受精して種子が成熟できることを自家和合性[self-compatibility]という。

アサガオ リュウキュウアサガオ
1年草のアサガオ(左)と多年草のリュウキュウアサガオ(右)は花のつくりが共通で、花がしぼむまでに同花送粉が起こり、同じ花の花粉が柱頭に付着する。

アサガオリュウキュウアサガオ
アサガオでは自花粉から花粉管が伸びているが、リュウキュウアサガオでは花粉管の伸長は起こらない。このように、花が良く似た近縁の種で、1年草は自家和合性・多年草は自家不和合性となる例はひんぱんに見られる。

自家不和合性は、生理的に自家交配をほぼ完全に妨げるので、自家不和合性があれば、他のしくみは要らないように見える。しかし、自家不和合性であっても自家送粉は以下の2点で有性生殖に費やした資源の浪費につながり、結果として他家送粉の効率を下げる。

  1. 花粉の浪費: 自個体の柱頭に付着した花粉は無駄になる。「せっかく作った花粉が大安売りされる」という意味で、「花粉減価」または「花粉天引き」[pollen discounting]と呼ばれる。
  2. 柱頭の機能低下: 柱頭が自個体の花粉で覆われ、露出面積が減って他株の花粉がつきにくくなる(stigma clogging)

植物が、自家不和合性以外のさまざまな自家送粉回避のしくみを持つのは、このことによって説明できる。

順次開花

同じ株が一度にたくさんの花を咲かせる(一斉開花)と、同じ株の花の間の送粉(隣花送粉)が起こり、自家交配が起きやすくなる。逆に、同時に咲く花が少数であれば、自家交配の危険は低くなる。ただ、訪花者の誘引にとっては不利で、特に、個々の花が小さい種では、著しく不利になるので、一つの花が十分に目立つことが必要となる。

ヤブカンゾウヤブカンゾウ(ユリ科|ススキノキ科ゼンテイカ亜科)。中央の花(咲き終わって脱落している)が最初に咲き、その下から2つの側枝が分かれる。それぞれの側枝では、側枝の先端の花→側枝の側枝の先端の花→側枝の側枝の側枝の先端の花→…という順に咲き進む。個々の花の寿命は1日で、1日には1個か2個ずつの花が咲く。
雌雄の空間的・時間的分離

両性花であり、葯と柱頭が接触していて、「花粉を出す時期」と「柱頭が受け取り可能な時期」が一致していれば、自動同花送粉が起こる。接触していなくても、互いに接近していれば、わずかな風で、あるいはポリネーターの短い訪問によって、同花送粉が起こる可能性が高い。

逆に、葯と柱頭が離れているか、葯が花粉を出す時期(雄性期)と柱頭が受け取り可能な時期(雌性期)とがずれているときには、同花送粉が起こりにくくなる。前者を「雄機能と雌機能の空間的な分離[spatial decoupling]」、後者を「雄機能と雌機能の時間的な分離[temporal decoupling]」という。

また、上のそれぞれについて、集団を構成する個体が2つか3つのタイプに分かれ、雌雄性に関して互いに補い合う関係となる場合がある。2つに分かれる場合を二型性、3つに分かれる場合を三型性という。

雌雄分離のパターン +二型性 +三型性
雌雄異熟 異型雌雄異熟
雌雄離熟 二型花柱性 三型花柱性
雌雄異花 雌雄異株など

雌雄に関する二型性・三型性(まとめて多型性という)は、他家交配の確率をさらに高くする。特に、雌雄異株では、有性生殖は完全に他家交配によって行われる。

雌雄異熟(異熟)

一つの両性花、あるいは一つの雌雄同株の株の中で、葯から花粉が出てくる時期(雄性期[male stage])と柱頭が花粉をつけられる状態になっている時期(雌性期[female stage])が時間的にずれていることを雌雄異熟(異熟)[dichogamy]という。両性花で異熟の場合は、1つの花の中でずれが見られる。雌雄同株で異熟の場合は、1つの株の中で、雄花が咲く時期と雌花が咲く時期がずれる。

下の2つが最も典型的で、かつ、最もふつうに見られる。 雄性先熟雌性先熟両性花における雄性先熟(左)と雌性先熟(右)の模式図

雄性先熟雌性先熟雌雄異花同株における雄性先熟(左)と雌性先熟(右)の模式図。単純化のために雄花と雌花1つずつの花序として描いているが、実際には多数の雄花どうし、多数の雌花どうしが同調して咲く。

雄性先熟では、雄性期が終わるより早く雌性期が始まるため、雄性期と雌性期がが重なる時期(両性期)がある場合がある。また、逆に、雄性期が終わってから雌性期が始まるまで、どちらでもない時期(無性期)がある場合もある。「雌性先熟」にも、同じことが言える。

雄性先熟は真正双子葉植物(後述)の虫媒花に、雌性先熟は原始的被子植物(後述)や風媒花に多くの例が見られる。

ヤツデやホタルブクロは雄性先熟の両性花で、先に葯から花粉が出てきて、葯がしおれてから柱頭が伸びてきて雌性期になる。

ヤツデヤツデヤツデ
ヤツデ(ウコギ科)。咲き始めは雄性期(左)。花弁が落ちると無性期(中)になり、蜜の分泌も止まる。柱頭が伸びて雌性期(右)になり、再び花盤に蜜がしみ出る。柱頭が茶色になり、蜜も出なくなると雌性期も終わる。

ホタルブクロホタルブクロホタルブクロ
ホタルブクロ(キキョウ科)のつぼみの内部。毛が密生した花柱を5つの白い葯が取り囲んでいる。開花が近づくと、葯から出た花粉が花柱の毛にへばりつく。

ホタルブクロホタルブクロホタルブクロ
ホタルブクロの花の中心部。開花直前・開花初期・開花後期の順。花柱が伸びるにつれて、葯は花粉を出し切ってしおれる。花柱についた花粉が取れたころに、花柱の先端が3つに割れて柱頭が露出する。

タブノキやスズメノヤリは雌性先熟の両性花で、先に柱頭が出てきて雌性期になり、柱頭がしおれてから葯が花粉を出す。

タブノキタブノキタブノキ
タブノキ(クスノキ科)の花。咲きはじめは雌性期(左)で、雄しべは横たわり、花柱だけが突き出ている。花被が閉じて(中)翌日に再び開くと雄性期(右)となる。

スズメノヤリ
スズメノヤリ(イグサ科)。雌性先熟の風媒花で、花被片が閉じたまま柱頭が伸びて受粉し、柱頭がしぼんでから花被片が開いて雄しべが顔を出す。

スズメノヤリ
雌性期の花序の拡大。柱頭は、どんな理由があるのか、ねじれている。

スズメノヤリ
雄性期の花序の拡大。柱頭はしおれている。

異型雌雄異熟(異型異熟)=雌雄異熟+二型性
期間雄性先熟型雌性先熟型
前半葯/雄花柱頭/雌花
後半柱頭/雌花葯/雄花

ナンキンハゼ(トウダイグサ科)・ノグルミ(クルミ科)では、集団の個体の約半分が雌性先熟、残り半分が雄性先熟で、開花期の前半に雄花を咲かせていた株は後半になると雌花を咲かせ、前半に雌花を咲かせていた株は後半になると雄花を咲かせる。このような性質は異型異熟と呼ばれ、個体内や同型間では受粉の機会が少なく、異型間では受粉の機会が多くなり、結果として他家送粉が促進される。

ナンキンハゼナンキンハゼ
ナンキンハゼナンキンハゼ(トウダイグサ科)の雄性先熟個体。長い穂に密についた雄花が先に咲き始める。雄花が咲き終わり穂が落ちる頃、穂の基部の小さな穂が伸びて、数個の雌花が咲く。
ナンキンハゼ
ナンキンハゼ
ナンキンハゼ(トウダイグサ科)の雌性先熟個体。穂のつけねについた数個の雌花が咲き、雌花が咲き終わると穂についた多数の雄花が咲く。
異熟・異型異熟については、雌雄異熟(1)(2)(3)(4)(5)(6)も参照。
雌雄離熟(離熟)

1つの花の中で葯と柱頭が、あるいは1個体の中で雄花と雌花が空間的に分離することを雌雄離熟(離熟)[herkogamy]という。

ヘクソカズラ・カタバミのように、柱頭が突きだして、葯が奥にある例が多い。このことは、次のように説明される。訪花したポリネーターが葯→柱頭の順に接触すると、自花粉を自家の柱頭につけて自家送粉を起こす可能性が極めて高くなる。柱頭→葯の順だと、自家送粉が起こりにくく、また、ポリネーターに他個体の花粉がついている場合には、それを柱頭で受け取ることを期待できる。

ヘクソカズラヘクソカズラ(アカネ科)。2本の花柱が筒状の花冠から突き出す。
ヘクソカズラ

カタバミカタバミ
カタバミ(カタバミ科)。ふつうは柱頭と葯が接近しているが、海に近い草地では、柱頭が突きだしたものが多い。

雌雄異花・風媒の植物で、雌花序が雄花序よりも高い位置にあることも、同じような説明ができる。

イワシデイワシデイワシデ
イワシデ(カバノキ科)の開花。枝の先端近くには雌花序、基部近くには雄花序がつく。
雌雄離熟
異花柱性=雌雄離熟+二型性または三型性

両性花かつ葯と柱頭が上下に離れているタイプの雌雄離熟で、集団が葯と柱頭の高さが相補的に違う複数の型からなることを異花柱性[heterostyly]という。二型花柱性[distyly]と三型花柱性[tristyly]の2つが知られている。

二型花柱性

二型花柱性
位置短花柱花長花柱花
柱頭
柱頭

二型花柱性では、花柱が長く花糸が短い花(長花柱花)をつける株と、花柱が短く花糸が長い花(短花柱花)をつける株とがある。長花柱花の柱頭の位置と短花柱花の葯の位置、そして短花柱花の柱頭の位置と長花柱花の葯の位置がそれぞれ対応している(表)。
このため、昆虫が両者を区別しないで渡り歩くと、長花柱花の柱頭に短花柱花の花粉、そして短花柱花の柱頭に長花柱花の花粉がつくことになる。

サツマイナモリサツマイナモリ(アカネ科)。九州の早春を告げる花の1つで、白い筒状の花をつける。短花柱花をつける株と、長花柱花をつける株とがある。

サツマイナモリ
サツマイナモリ
サツマイナモリの長花柱花

サツマイナモリサツマイナモリの短花柱花
サツマイナモリ

プリムラ・ポリアンサ園芸品 プリムラ・ポリアンサ園芸品
プリムラ・ポリアンサの園芸品。左が長花柱花、右が短花柱花。サクラソウ属(プリムラ)は、異花柱性の交配様式の研究の端緒となった植物だ。同じ種に長花柱花と短花柱花があることが早くから知られており、前者は"pin"(針の頭)、後者は"thrum"(撚り糸の切れ端?)と呼ばれていた。
異花柱性・雌雄異株・閉鎖花については、ダーウィンの記念碑的な著作"The different forms of flowers on plants of the same species"(1877)(リンク)が研究の出発点となった。この本の冒頭の数十ページはサクラソウ属の記述に費やされている。

三型花柱性

三型花柱性
位置短花柱花中花柱花長花柱花
柱頭
柱頭
柱頭

ミソハギ属・カタバミ属・ホテイアオイ属・スイセン属などでみられる三型花柱性では、葯と柱頭の位置に上・中・下の三段階があり、表のようになっている。葯が高さがずれた2つのグループに分かれている必要がある。

エゾミソハギエゾミソハギ
エゾミソハギ(ミソハギ科)の中花柱花。長い雄しべの葯(藍色・6つ)と短い雄しべの葯(黄色・6つ)の中間に柱頭がある。

エゾミソハギ
エゾミソハギ(ミソハギ科)の長花柱花。柱頭が先頭で突き出し、花筒から少し飛び出した葯が6つ、花筒の奥に葯が6つ。

ホテイアオイ
ホテイアオイ(ミズアオイ科)の中花柱花の中心部

6-9-6. 他家交配・自家交配の比率の多様性

ほぼ自家送粉専門の植物もあれば、ほぼ他家送粉専門の植物もある。また、自家送粉と他家送粉をさまざまなかたちで併用する植物もある。その結果として、自家交配と他家交配の比率も植物によってさまざまだ。

集団全体で行われた交配のうち、他家交配が占める割合を、その集団の「他殖率」[outcrossing rate]、自家交配が占める割合を「自殖率」[selfing rate]という。できた種子のうち、他家交配でできた種子が占める割合が他殖率、自家交配でできた種子が占める割合が自殖率に一致する。

個体の他殖率・自殖率

個体が行った交配のうち他家交配が占める割合を、その個体の「他殖率」[outcrossing rate]、自家交配が占める割合を「自殖率」[selfing rate]という。

父親が
自個体 他個体
母親が 自個体 A B
他個体 C
A=自家送粉による種子の数、B=他個体の花粉によってできた種子の数、C=自花粉によって他個体がつけた種子の数

個体が母親として行った交配の数は(A+B)で、そのうち自家交配はA、父親として行った交配の数は(A+C)で、そのうち自家交配はAだから、自殖率=2A/(2A+B+C)、他殖率=(B+C)/(2A+B+C)だ。

例えば、両性個体が17個の種子をつけ、そのうち7個が自家送粉、10個が他個体の花粉により、花粉が他個体に運ばれ、その花粉によって16個の種子ができたとすると、自殖率は35%、他殖率は65%となる。

集団全体としては、他の集団と隔離されていると仮定するとΣB=ΣCだから、自殖率=ΣA/(ΣA+ΣB)、他殖率=ΣB/(ΣA+ΣB)となる。

自動自家送粉をする種類では自殖率は約100%、逆に雌雄異株や自家不和合性、あるいは他の方法によって自家送粉を禁じている種類ではほぼゼロになる。それ以外の種類では、他家交配と自家交配の両方をする可能性があって、自殖率はさまざまな値となる。この場合、自殖率は、花の特徴だけでなく、環境条件によっても左右される。

自殖率が高くなる例としては、次のような場合が挙げられる。

6-9-7. 繁殖のさまざまなやり方

植物の繁殖方法を分類し、形態や遺伝的な特徴をまとめると、下のようになる。

有性生殖[sexual reproduction]
有性生殖
有性生殖におけるゲノムの混ぜ合わせの模式図。
A―母親の卵細胞ゲノム、B―父親の精細胞ゲノム、C―子の体細胞ゲノム、D~G―子の胞子ゲノム。
1―受精
2―DNA複製、3―体細胞分裂 (2+3―細胞周期)
4―対合(相同なDNA分子どうしの接合)
5―乗り換え(DNA分子のつなぎ換え)
6―減数分裂

花粉の中の精核が胚珠の中にある卵細胞に入って受精し、受精卵となる。受精卵から新しい植物=胚ができる。胚のゲノム(DNA分子一式)は減数分裂と受精を経て両親から半分ずつ受け継ぐ→親と子、子どうしのゲノムに違いがある。受精では両親のゲノムが合わさって子のゲノムになる。子が有性生殖をするときには、減数分裂の最初の段階で、母親由来のDNA分子と父親由来のDNA分子が接合してから両者の間でつなぎ換わり(切り貼り)が起こる。つなぎ換わったDNA分子は、ランダムに再配分されて大胞子(胚嚢細胞)や小胞子(花粉細胞)のゲノムを構成する。胚嚢細胞から体細胞分裂によって卵細胞が、花粉細胞から精細胞ができる。

他家交配

両親のうち、精核をつくった方(父親)と卵細胞をつくった方(母親)が別々の株となる。ヘテロ接合ができやすい。

自家交配

同一の株がつくった精核と卵細胞どうしが受精する。ホモ接合ができやすい。


無性生殖[asexual reproduction]

受精卵でなく、親株の組織から新しい植物ができる。子は親と全く同じゲノムを持つ。

種子をつくる無性生殖(無融合種子生殖[agamospermy]/アポミクシス[apomixis])

受精を経ずに胚珠が種子となる。珠心の組織の一部から胚ができる場合と、染色体の乗り換えや減数なしで卵細胞が形成されて胚になる場合とがあり、いずれの場合も胚は母親と同一のゲノムを持つ。外見上は有性生殖と変わらず、受粉を阻害して継続観察するか内部構造を見なくては区別できない。セイヨウタンポポ・ニガナ・ヤブマオなどで、ほとんどは三倍体のような奇数倍数体で有性生殖がうまくできないような種類である。

セイヨウタンポポの花弁や蜜は役に立っていないが、受粉を必要とする在来種タンポポに劣らず大きな花冠を持ち、蜜を出す。これは、無融合種子生殖をするようになったのが比較的最近であるため、形態の進化が追いついていない状態と解釈される。
無融合種子生殖は単為生殖[parthenogenesis](雌が単独で子を産む生殖)の一種として扱われることもある。単為生殖のあり方は多様で、無性生殖に含まれるものと有性生殖に含まれるものがある。
栄養繁殖(5-3を参照)

種子以外のさまざまな器官が親株から離れて新しい植物となる。栄養繁殖のための器官である子イモ・芽・ムカゴは、種子よりも大きく、発芽段階をとばして直ちに成長を始められるという利点がある。その代わり、種子のように遠方に運ばれる可能性は低い。

それぞれの種類は、上の4つのさまざまな組み合わせによって繁殖している。一年草には自家交配をおもに行うものが多く、自動自家送粉も普通に見られる。栄養繁殖をする一年草は、水草のような特殊なものを除くと少ない。一年草は、種子をつくったあと枯れてしまうので、種子をつくることができなければ、子孫を残せないまま死んでしまうことになる。そのため、確実性の高い自家交配をするのが有利なのだろうと思われる。多年草は、ずっとさまざまで、自家交配をおもにしているもの、他家交配をおもにしているもの、他家交配のみをするものなどがあり、それに栄養繁殖を併用する場合がある。樹木では他家交配するものが多いと言われている。

6-9-8. 生殖法を知るための観察と実験

他家交配・自家交配・無性種子繁殖を行うしくみの有無や有効性は、花・訪花動物の観察、人為的な実験処理、遺伝的な分析を組み合わせることで推定する。

処理の代表的なものとしては、袋掛け(花全体をつぼみのうちに細かい網の袋で覆い、虫や、風で飛んできた花粉をシャットアウトする)、除雄(雄しべを、花粉がまだ出て来ていないうちに取ってしまう)、人工交配が挙げられる。どちらも、処理をした場合(処理群)の種子のでき方(種子数/胚珠数)が無処理の場合(対照群)と比べてどうなるか、からさまざまな推定をする。

タブノキタブノキ(クスノキ科)で行った袋掛け・交配実験のようす。袋をかけて昆虫の訪花を排除し、雄性期の花の葯を雌性期の花の柱頭になすりつける。
タブノキタブノキ
タブノキ交配した花には、花粉親によって違う色で印をつける
タブノキ子房がふくらみ始めてから、果実が熟するまで残存率を調べる。
  1. 袋掛け→種子が無処理と同じくらいできる: 自動自家送粉をする
  2. 袋掛け→種子ができない: 他家交配
  3. 袋掛け→途中で袋を開け、同じ株の花粉をつける→種子ができない: 自家不和合性(もちろん他家交配)
  4. 袋掛け+除雄→種子ができる: 無性種子生殖
  5. 除雄→種子ができない・少ない→おもに自家交配
  6. 花弁を半分切除する→種子ができない・少ない: 花弁が送粉に大きなはたらきをしている
  7. 目の粗い網で袋掛け+除雄→種子ができる: 網の目をくぐり抜けられるような小さな昆虫、あるいは風が送粉をする

遺伝的な分析を使うと、母株と子株のゲノムを比較したり、自家交配によってホモ接合が増えることから個体や集団の自殖率を推定することができる(集団遺伝学・遺伝学の講義を参照)。


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