6-4. 動物媒花:誘引

「○○で訪花動物をひき寄せる」というとき、○○には動物が求めているもの自体である場合と、求めているもののありかを示す信号である場合とがある。この項では信号の方、求めるもの自体の方は次項で扱う。

6-4-1. 動物の誘引

訪花動物に花の存在を知らせ、導くため、動物媒花は動物のさまざまな感覚に対する信号を作り出している。花の形・模様・色は視覚に対する信号、匂いは嗅覚に対する信号で、この2つが最もふつうに見られる。

キューバに分布するMarcgravia eveniaは聴覚に訴える珍しい例で、花序の真上に巨大なスプーンのような葉が直立し、送粉者のコウモリが発する超音波を効率的に反射する。

Simon et al. 2011. Floral Acoustics: Conspicuous Echoes of a Dish-Shaped Leaf Attract Bat Pollinators. Science 333 (6042): 631-633 DOI: 10.1126/science.1204210 (Abstract紹介記事)
6-4-2. 視覚による誘引

「目立つ」ための最も基本的な条件は、次の3つだ。

1. 大きい

面積が広くて目立つ花被は、一方では軽くて弱い。細胞壁は薄く、内部はすきま(細胞間隙)が大きな容積を占めている。このような構造は、少ない資源で見かけを大きく見せることに貢献している。

テッポウユリ(園芸品)リュウキュウアサガオ
テッポウユリ(園芸品)(ユリ科)・リュウキュウアサガオ(ヒルガオ科)の内花被片の内部の組織。エダサンゴのような細胞がつながり合い、細胞間隙が大きな容積を占める。
2. 回りと対照的

花の場合、自身の葉や茎との対照(コントラスト)が強いことが有利だ。花冠をはじめとした誘引の役割を持つ器官は、緑色よりも波長が短い色(青~紫)あるいは長い色(黄~赤)を持つものが多数を占める。

3. 露出している
エゾエンゴサクエゾエンゴサク(ケシ科)

花は「花序」と呼ばれる専用のシュートにつくことが多い。花序は、同じ個体の葉から飛び出しており、ふつうの葉より小さい葉しかつかない傾向がある。

サンシュユサンシュユ(ミズキ科)。早春、葉が出る前に開花して黄色い雲のように見える。小さな四数性の花が球状に集まっている。

春に咲く落葉樹では、芽吹き前や芽吹き直後の葉が拡がる前に咲くものがしばしば見られる。

花や花序は露出することは、風媒でも花粉の飛散が遮られない点で有利だ。
6-4-3. 花の色

花の色を決めるのは、主に色素・細胞間隙・表面構造の3つだ。

(1) 色素

花の色をつくる多種多様な色素は、クロロフィルを除いて主に次の3つの分子群に属する。

  1. フラボノイド: 細胞内では液胞内の水溶液に含まれる。さらに複数のグループに分かれる。
  2. ツワブキ カロテノイド: 光合成色素のカロテンやキサントフィルを含む黄~橙の色素群。非水溶性で細胞内では色素体に含まれる。
    シュンギクカボチャ
    右: ツワブキ(キク科)の舌状花冠の表皮細胞

    左: シュンギク(キク科)・カボチャ(ウリ科)

  3. ベタレイン: 赤紫~赤~橙~黄色で赤紫のことが最も多く、液胞内の水溶液に含まれる。被子植物では、ナデシコ目と呼ばれるグループに属する植物だけにほぼ限定される。
    カワラナデシコハゼランケイトウ
    カワラナデシコ(ナデシコ科)・ハゼラン(スベリヒユ科)・ケイトウ(ヒユ科)
除草剤と花色

フラボノイド色素は、芳香族アミノ酸のフェニルアラニン(Phe)から合成される。植物はフェニルアラニンをシキミ酸経路で合成するが、動物はシキミ酸経路を持たず、食物から摂取している。このことを利用して、シキミ酸経路を阻害することで動物に影響を与えずに植物を枯らす除草剤がある。このタイプの除草剤がかかると、葉や茎が枯れる前に色素合成が阻害されて花弁や花粉の色に影響が出ることがある。

ナガミヒナゲシナガミヒナゲシナガミヒナゲシ(ケシ科)の花。花弁は朱色で花粉は黄色。
ナガミヒナゲシナガミヒナゲシ開花前に除草剤を散布された個体。色素合成が阻害されて花弁の色がほとんどなくなり、花粉は白色となる。
(2) 細胞間隙の空気

細胞間隙の空気と細胞の境界面で光が反射・散乱することで花被片は不透明になる(白みを帯びる)。色つきのゼリーを泡立てると細かい気泡で不透明で白っぽい泡立てゼリーとなる。白い花被片はフラボンを含むことが多いが、白い色は、淡黄色・透明な卵白を泡立ててできるメレンゲが白いのと同じく、ほぼ「泡の色」だ。

スイセン スイセン スイセン
スイセン(ヒガンバナ科)の花を減圧脱気すると、細胞間隙の空気が気泡となって抜け、白い花被片がほぼ透明になる
(3) 表面のようす(光沢・凹凸など)

細胞レベルまで拡大すると、花弁の表面にさまざまなタイプの凹凸が見られることがある。光を散乱して光沢を抑えて色に深みを増す、送粉者の足がかりを提供する、などの機能があると考えられている。

ネズミモチ
ネズミモチ(モクセイ科)の花冠裂片上面(向軸面)。細胞の突き出しと細胞表面の縞模様によって複雑な凹凸がある。
近紫外線の反射/吸収パターン

動物の視覚の特性はグループによって違うので、人間が感じる「色」だけで判断するのは不十分だ。昆虫の多くは近紫外線を見ることができるため、近紫外線を反射するか/吸収するかも、昆虫にとって目印になる(→紫外線透過フィルタで撮った花)。

セイヨウカラシナ
セイヨウカラシナ(アブラナ科)の花。左はふつうの写真、右は可視光線のほとんどを遮断し、紫外線(おそらく近紫外線)の反射率を強調するように撮影した写真。花弁の外側は紫外線を反射し、基部と脈は吸収する。紫外線を見ることが出来る昆虫にとっては、このような模様も視覚への信号となる。
6-4-4 「助け合う」花

単独で咲くよりも複数の花がかたまって咲いている方が目立つ。特に、ポリネーターが広い範囲から花を探すとき、あるいは個々の花が小さいときには、1つ1つの花よりも、開花個体や花序のような「花の集まり」が誘引の単位となる。

1つの花のように見える花序
ゲンゲゲンゲ(別名レンゲソウ、マメ科)。複数の花が球状に集まっている。マメ科では、シロツメクサなども同じようになっている。

円盤状(皿状)や球状の花序の中には、花序がまるで1つの花であるかのような外見を作る種類もある。ゲンゲのように、同じ形の花が集まるものもあれば、花序の中で場所によって花のかたちに違いがあり、外側の花が誘引においてより大きな役割を持つものもある。後者の場合、違いの程度はさまざまで、シャクのように花びらの大きさが違う程度のものから、アジサイの仲間の通常花と装飾花、キク科の筒状花と舌状花のように、花の構造がはっきりと異なるものまである。

シャクシャク(セリ科)。外側の花の方が大きい花弁を持ち、誘引に対する貢献度が高い。結果として、花の密度を高めながら花序全体を大きく見せる。

コガクウツギ(コンテリギ)
コガクウツギ(ユキノシタ科|アジサイ科)。周辺の1~3個の花(装飾花)では、萼片のうち3枚が広がっていて、色も白い。また、3枚のうち、花序の外側に位置するものは、他の2枚より大きい。装飾花に囲まれた多数の小さい花では全部の萼片が小さくて緑色のままだ。
花序のほとんどが装飾花からなるアジサイは、装飾花と通常花を持つ野生種(ガクアジサイ)から、装飾花が多い系統を選抜して作り出された。
ガクアジサイアジサイ
ガクアジサイとアジサイ(ユキノシタ科|アジサイ科)
ツワブキの頭花ツワブキの頭花
ツワブキ(キク科)の花序。花序の外側に並ぶ舌状花(2)では、花冠のへりがへらのように広がっている。数の上で多い筒状花(1)は、真ん中に丸く集まっている。こういう花序を、頭状花序[head]、略して「頭花」という(→ツワブキとキク科の頭花)。
送受粉が終わっても咲き続ける花
ノイバラ満開のノイバラ(バラ科)。近づいてみると(下の写真)、たくさんの花のうち、雄しべや雌しべが新鮮な花は半分以下で、他の花では雄しべ・雌しべは萎れて黒ずんでいる。
ノイバラ

葯が花粉を出し終わったり、柱頭に花粉がついたり、雄しべ・雌しべの寿命が尽きるなど、送受粉のはたらきが終わった後も花被が咲いたままになっていることがある。このような「花の居残り」あるいは「終花遅延」は、花粉や蜜を出している花を実際よりも多く見せかける効果がある。

アジサイ類の装飾花やキク科の舌状花も、雄しべ雌しべが萎びた後も、通常花や筒状花が咲いている間は目立つ状態を保ち続ける。

スイカズラシチヘンゲ
上: シチヘンゲ(クマツヅラ科)
左: スイカズラ(スイカズラ科)

さまざまなグループで、送受粉を終えた花が花冠の色を変えて咲き続ける「花色変化」と呼ばれる現象が知られている。例えば、ニシキウツギ属(スイカズラ科|タニウツギ科)では白→赤、スイカズラ属(スイカズラ科)やトベラ属(トベラ科)では白→黄、シチヘンゲ(ランタナ、クマツヅラ科)では黄→赤、ニオイバンマツリ(ナス科)では紫→白に変化する。

送受粉を終えた花がポリネーターを引き寄せることは、周りに送受粉可能な花がある限りは、植物にとっても利益となる。一方、送受粉を終えた花をポリネーターが訪れることは、植物にとってもポリネーターにとっても損失となる。ポリネーターにとっては単純に無駄働きだ。また、植物から見ると、ポリネーターが同じ個体に長時間留まることになり、ポリネーターの身体についた花粉が終わった花について無駄になるなど、他家受粉を妨げる。花色変化はポリネーターの無駄な訪花を防ぐ信号としてはたらくのではないかと考えられている(鈴木ら 2011)。

鈴木美季・大橋一晴・牧野崇司 (2011) 生物問相互作用がもたらす形質進化を理解するために:「花色変化」をモデルとした統合的アプローチのすすめ. 日本生態学会誌61:259-274
6-4-5. 匂いも動物を誘引するのに使われる

花(おもに花弁)からさまざまな揮発性の有機物を放出する種類もある。これらの物質が、「花の匂い」(花の香り、花香)として感じられる。光合成や代謝の反応経路のいろいろなところから分岐した反応経路を通って合成されるため、種類によって組成が違い、種類に特有の花の匂いを作り出す。

花の匂いは、花被と協力して動物の誘引をする。甲虫類のように視覚より嗅覚が発達している動物を誘引する花や、夜に咲いてガやコウモリを誘引する花、ハエのように肉や魚が腐ったような匂い(アミノ基を含む揮発性物質)を好む動物を誘引する花では、匂いは花被の色や形より重要な役割を果たしていると思われる。深い森のように、他の植物の陰に隠れたところで咲く花では、匂いの方が遠くまで届く可能性がある。

カラタネオガタマカラタネオガタマ(モクレン科)。花被片がバナナのような匂いを放つ。モクレン科は、花の匂いと系統との関係が最もよく分かっているグループの一つ(東浩司・河野昭一 1999 花の匂いの進化を探る―モクレン属植物を例に 大原雅(編) 花の自然史―美しさの進化学 北海道大学出版会)。

Bulbophyllum属の1種
Stapelia属の1種上: Bulbophyllum属の1種(ラン科)。
左: Stapelia属の1種(ガガイモ科|キョウチクトウ科)。
このような、茶~濃赤紫でけばだった花被を持つ花には、魚が腐ったような匂いがするものが多い。


テキスト目次に戻る
ホームに戻る