4-6. 食べられるのを防ぐしくみ

「食べられる」ことは、ほぼ全ての植物が直面し、生存と繁殖に大きく影響する現象だ。植物、特に葉や茎の特徴の中には、「食べられること」を防ぐため、あるいは被害を少なくすると思われるものが多い(前で述べたように、秋の紅葉もアブラムシの食害を避ける利点があるという有力な説がある)。細胞壁のセルロース・リグニンや細胞が含む酸化したタンニンは、もっともありふれた防御手段で、植物体を堅くするとともに、食物としての質を下げる。

4-6-1. さまざまな生物がさまざまな方法で植物を「食べる」

動物に食べられることを食害[predation]、食べる動物をプリデーター(食害者)[predator]という。

これは食べられる側からの表記で、食べる側からは「摂食」「捕食」など別の言い方をすることが多い。

内部や表面に住みついて組織から栄養を奪うことを寄生[parasitism]といい、奪う方の生物をパラサイト(寄生者)[parasite]、奪われる生物をホスト(宿主/寄主)[host]という。菌類・ウイルス・バクテリア・小型動物(昆虫・ダニ類が代表的)・他の植物が、植物にとっての寄生者となる。菌類・ウイルス・バクテリアの寄生による植物の被害を病害といい、病害を起こすパラサイトを病原体[pathogen]、病原体の寄生が始まることを感染[infection]という。

寄生は広い意味での食害に含まれるが、ふつうは上のように区別される。しかし、両者の境目ははっきりしない。特に昆虫が植物を「食べる」場合は、食害・寄生のどちらでも良さそうなものも多く、しばしばまとめて「虫害」と呼ばれる。

「食べる―食べられる」の内容はさまざまだ。食害者/寄生者は脊椎動物からウイルスまでさまざまなグループに属し、シカの食害のように森林や草原の風景を一変させるスケールの大きなものから、潜葉虫のように1枚の葉の中で完結するものもある。

ヤギ
河川敷で草を食むヤギ

オヘビイチゴ・サビ菌オヘビイチゴ・サビ菌
Phragmidium属(?)のサビ菌に寄生されたオヘビイチゴ(バラ科)

ハナタデ マコモ
マコモ
黒穂病菌に感染したハナタデ(タデ科・左)とマコモ(イネ科・右)。感染したハナタデは穂が黒い胞子で充満する。殺穂病菌に寄生されたマコモの茎は肥大し、マコモダケ(マコモタケ)と呼ばれて食用になる。

ヒヨドリバナ
ウイルスに感染して葉が黄変したヒヨドリバナ(キク科)

チューリップ
ウイルス感染によるチューリップ(ユリ科)花被片の黄化
シカの食害と植物
シカ
下草を喰んでいるシカ(キュウシュウジカ)

アオキ嗜好植物のアオキ(ミズキ科|ガリア科)。大型で光沢が強く、荒い鋸歯がある葉が対生する。若い枝は深緑色。

1970年代からシカ・イノシシ・ニホンザルの分布範囲が広がるとともに生息密度が上がる傾向が報告され、農業被害やダニ・ヒルの増加などの問題が散発していた。1980年代後半になると、シカの増加によって植物群落に大きな変化が生じる現象が全国各地で起こるようになり、2000年ごろには、希少植物の絶滅要因となっていることが明確になった。

シカの数が増加すると、植物群落からシカが好む植物(嗜好植物)が姿を消す。

アオキアオキ
ニホンジカの食害を受けたアオキ

スズタケシカが繰り返して葉を食べたことによって枯死したスズタケのやぶ

シキミ
シキミ(シキミ科|マツブサ科)。有毒植物で、シカが他の植物を食べつくした林床でも、点々と残っている。

洲藻白岳洲藻白岳
マツカゼソウ(下の写真左)とナチシダ(下の写真右)がびっしりと茂る林床(対馬・洲藻白岳)

ヒカゲノカズラヒカゲノカズラに埋め尽くされた林床(宮崎県えびの高原)

さらに密度が高まると、樹木の低い枝が姿を消し、林床は土が露出した光景となるか、少数の強い忌避植物だけが茂る単調な環境になる。

高密度地域では、シカから植物を保護する柵の設置や駆除等の対策がされているが、新たな分布拡大も報告されている。

エンドウ
エンドウハモグリバエ類などの潜葉虫は葉に潜り込んで柵状組織と海綿状組織を食べながら移動する

「食べ方」も千差万別で、全体を選り好みをせずに食べる動物もいれば、セルロースの少ない若い葉や柔らかい葉を好んで食べる動物、葉をまるごとではなく葉脈や表皮の堅い部分を避けて食べる動物もいる。また、セミやカメムシ、アリマキは、口吻(筒になったくちばし)を突き刺して篩管から液体を吸収する。

マグワ・カイコガ
マグワ(クワ科)の葉を食べるカイコ(カイコガ幼虫)

カラムシ・フクラスズメ
カラムシ(イラクサ科)の葉を食べるフクラスズメ幼虫

サルトリイバラサルトリイバラ(ユリ科|サルトリイバラ科)の葉裏で吸汁するアブラムシ。太い葉脈の横に集中している。

アオツヅラフジ・クチナガチョッキリ
アオツヅラフジ(ツヅラフジ科)果実から吸汁するクチナガチョッキリ
寄生者による形態の変化

寄生者の中には、植物ホルモンなどを通じて植物の特徴を寄生者の成長・繁殖に有利な方向に変化させるものがいる。最もしばしば見られるのは葉・茎・芽の組織の異常成長で、昆虫の寄生による場合は虫こぶ(虫癭 ちゅうえい)[gall]と呼ばれる。多くの場合、異常成長した組織は肉厚になり、空洞や巻き込みによって外部から遮断された空間が形成されて寄生者のすみかとなる。

ガジュマルガジュマル
アザミウマに寄生されたガジュマル(クワ科)の葉は縁が巻き込んでアザミウマの繁殖の場となる

タブノキ
タブノキタブノキ(クスノキ科)の葉裏にできたタマバエの虫えい
テリハノイバラ
テリハノイバラテリハノイバラ(バラ科)の葉にできたバラハタマバチによる虫えい
イスノキイスノキ
イスノキイスノキ(マンサク科)の葉にできるヤノイスアブラムシの虫えい。アブラムシに寄生された開花期の新葉では、組織が以上成長して中空のふくれた部分に形成される。最初は上のように1匹だけ。
イスノキイスノキ
およそ1月後の虫えいは、多数のアブラムシが詰まっており、有翅型が含まれている。下の尖ったところが開いて外に出てくる。

アスナロ天狗巣病
アスナロ天狗巣病サビ菌感染によるアスナロ(ヒノキ科)の天狗巣病

キケマン属(ケシ科)では、サビ菌に感染した茎は花序をつけなくなって有性生殖能力を失い、一方で葉が高い位置につくようになる。サビ菌にとって、前者は栄養の吸収に、後者は胞子散布に有利となる特徴だ。ファイトプラズマ(ゲノムサイズが非常に小さく細胞壁がないなどの特徴を持つバクテリアのグループ)に寄生されたヒメウズ(キンポウゲ科)の花茎も、同じようにひょろ長く直立して花の代わりに数枚の葉をつける。

ムラサキケマン
ムラサキケマン(ケシ科)の葉裏に散らばるサビ胞子堆

ムラサキケマン
ムラサキケマン(ケシ科)。左の2本は葉裏にサビ胞子堆が出ていて、右の2本は出ていない。前者は後者より葉の位置が高く、茎頂に花序ができない。

ヒメウズファイトプラズマに感染したヒメウズ(キンポウゲ科)。非感染個体(左下)に比べて草丈が高くなり、花がつくところにの数枚の葉がつく。
寄生操作[寄生者による宿主(寄主)操作]

虫こぶや花の形成阻害のように、寄生者が宿主の特徴を寄生者に有利なように変形する現象は、「寄生操作」[parasite manipulation]と呼ばれる。宿主が動物で行動や形態が操られる場合は古くから多数の例が知られており、新しい例の報告も相次いでいる。

寄生操作は、大変インパクトが強く知名度も高い現象だが、それだけでなく、多様な生態系やグループに普遍的に存在して進化や生態系に大きな影響を与えているのではないかと考えられている。

寄生操作する寄生者に寄生して寄生操作することを「超操作」[hypermanipulation]という。米国南東部に分布するカンオケバンニンバチは超操作の例で(Weinersmith & al. 2017)、カシ(ブナ科)の若枝に虫こぶを作るタマバチに寄生する。寄生されていないタマバチは羽化後に虫こぶの壁に穴を空けて外に出るが、寄生されたタマバチは小さ過ぎで脱出できない穴を空け、頭部が穴に嵌まり込んだ状態で死亡する。タマバチより小形のカンオケバンニンバチは、タマバチの頭部を食い破って穴から外へ出る。タマバチに「空けさせた」穴を使って虫こぶから脱出することで、カンオケバンニンバチの生存率は自力で穴を空ける場合の4倍になる。

食害/寄生の多様性に対応して、食害/寄生を避けるしくみにも、いろいろなものがある。

4-6-2. 有毒/忌避物質を含有する化学的防御

さまざまな物質が食害を防ぐはたらきを持っている。タンニンや蓚酸カルシウムのように食物としての質を下げるものから、アルカロイド・青酸・精油(匂いがある揮発性の有機化合物)などの「植物毒」と呼べるようなものまである。

タンニンと食害の関係は、森林で大量に落下するために生態的な重要性が高いブナ科の果実(ドングリ・クリなど)で多数の研究がある。濃度が低い果実が食害動物に好まれる例(ex. Smallwood & Peters 1986)、高濃度の果実を給餌すると生存率が下がる例(Shimada & Saitoh 2003)、濃度が高いことで菌類の侵入が妨げられる例(Takahashi et al. 2009)などが知られている。

スイセンアジサイ
身近な毒草の例。スイセン(ヒガンバナ科)・アジサイ(ユキノシタ科|アジサイ科)、どちらも全草が有毒だ。

実害がある濃度の植物毒を含む植物は身近にもきわめて多く、特にアルカロイドによる食中毒はけっこうな頻度で起こっている。ジャガイモ(ナス科)のソラニン、イヌサフラン(ユリ科|イヌサフラン科)のコルヒチン、ヒガンバナ科のリコリン、トリカブトのアコニチンなど。クワズイモやマムシグサ類(ともにサトイモ科)では、葉柄やイモ、果実に含まれる多量のシュウ酸カルシウム結晶が口の中や消化管にダメージを与えて食中毒になることがある。

トウガラシの果実に含まれる辛味成分(カプサイシノイド)は菌類の侵入を防ぐ効果があり(ただし、昆虫の食害には効果がない)、辛い果実は菌類の侵入に対して有利であったために進化したのではないかと説明されている。
Tewksbury JJ & al. 2008. Evolutionary ecology of pungency in wild chilies. PNAS 105(33): 11808–11811, doi: 10.1073/pnas.0802691105 link
クスノキ

クスノキ(クスノキ科)の葉の断面(パラフィン切片像・サフラニン―ヘマトキシリン―ファストグリーン三重染色)。柵状組織や海綿状組織にある大きな空洞は、精油を貯える大型の細胞で、「精油細胞」と呼ばれる。クスノキの精油は防虫作用がある樟脳(しょうのう)の原料となる。

植物毒を「毒」「薬」として使う人間/動物
ハシリドコロタンナトリカブトハシリドコロ(左)とタンナトリカブト(右)

人間は古くから植物毒を「毒」として狩猟・漁獲や戦闘に使ってきた。また、用法・用量を調節することで「薬」として用いる例も無数にある。ジギタリス(ゴマノハグサ科|オオバコ科)の毒性成分は強心剤として、ベラドンナやハシリドコロ(ともにナス科)の毒性成分(アトロピン)は散瞳剤や麻酔薬などに、古くから使われてきた。トリカブト類(キンポウゲ科)の地下茎は生薬「附子」(ぶし)として用いられる。

動物にも、植物毒を「毒」または「薬」として使うものがいる。天敵から身を守る「毒」として使う動物は、昆虫で多数の例が知られている。ジャコウアゲハ類(食草: ウマノスズクサ科ウマノスズクサ属)やマダラチョウ類(食草ガガイモ科など)は、食草に含まれる毒を身体に貯える(たいていは、派手な色彩と組み合わさっている)。タテガミネズミ(ネズミ科)は毒を含む樹皮を噛み砕いてから有毒成分の溶けた唾液を体毛にしみこませる(Kingdonら 2011)。

ツツジ園芸種ツツジ園芸種
ウマノスズクサ上のジャコウアゲハ幼虫とツツジから吸蜜するジャコウアゲハ成虫

「薬」として使う動物も報告されている。毒性がある植物を積極的に食べて体内の寄生虫を駆除する行動は、多数の哺乳類やヒトリガ類の幼虫(毛虫)で知られており、チンパンジー・ボノボ・ゴリラで最も研究が進んでいる(Huffman 2003, 2012; ハフマンら 2000; Singerら 2009)。

実際に食害や感染による傷害が起こったときに応答する化学的防御もさまざまな植物で知られている。傷害を受けた植物体ではジャスモン酸(JA)が素早く生合成され、タンパク分解を妨げる物質(食害者の消化を妨げ、食物としての質を下げる)や感染抵抗性を持つ物質など、多面的な防御反応を引き起こす。また、メチル化して揮発性のジャスモン酸メチル(MeJA)となり、周囲に発散して隣接する植物の防御反応を誘発したり、食害者の天敵の誘引にもはたらいている。

ジャスモン酸は植物ホルモンとして傷害応答以外にも多様な機能を持つ。ジャスモン酸メチルはジャスミン(モクセイ科)などの花の香りの主要な成分だ。
4-6-3. トゲや毛、粘着帯による物理的防御

トゲは大型の動物に、毛と粘着帯は小型の動物に対して効き目が大きい。クサイチゴの葉は両方を兼ね備える例。

トゲを持つ樹木には、背が低いときにはたくさんのトゲをつけるが、成長するにつれトゲの数が少なくなる(またはつけなくなる)ものが多い。

ヒイラギモクセイヒイラギモクセイヒイラギモクセイ
ヒイラギモクセイ(モクセイ科)の葉の縁にはギザギザ(鋸歯)があり、鋸歯の先端は鋭いトゲになっている。写真では、1本の木から3枚の葉を選んでいる。地面に近い枝ではトゲの数が多く、高いところにある枝ではトゲが少ない葉やトゲがまったくない葉が多い。

ヒイラギモクセイ
大学内に植えられている5本のヒイラギモクセイで計測した、葉の高さ(地表面から)とトゲの数の関係。各値は8~10枚の葉の平均値で、"AP"は枝の先端にある葉、"BS"は枝の基部にある葉。

ヒイラギヒイラギ(モクセイ科)の枝。葉の縁には、先がトゲになった鋸歯がある。低い枝や小さな株では鋸歯は鋭く、トゲも長い。高い枝では、鋸歯の尖り方は緩くなり、トゲも短い。枝のつけねの方では鋸歯の数が少なくなり、中には全くない葉も出てくる。ヒイラギモクセイは交雑でできた園芸種で、トゲの性質は片方の親と推定されているヒイラギから受け継いだものと考えられる。
ヒイラギ

カラスザンショウカラスザンショウカラスザンショウ
カラスザンショウ(ミカン科)。羽状複葉を持つ。若木のときには葉軸や枝に棘が多いが、大きな木ではほとんど棘がなくなる。

カラスザンショウ・ナミアゲハ
トゲで身をかためた幼樹も、アゲハの食害にはなすすべがない
セイヨウヒイラギ(モチノキ科)では、草食動物に葉がついばまれた個体ではトゲのある葉ができやすくなる。トゲのある葉とトゲのない葉の間でDNAメチル化の程度に違い(トゲのある葉の方が低い)が検出された。
Herrera CM, Bazaga P. Epigenetic correlates of plant phenotypic plasticity: DNA methylation differs between prickly and nonprickly leaves in heterophyllous Ilex aquifolium (Aquifoliaceae) trees. Botanical Journal of the Linnean Society. Article first published online: 13 Dec 2012. DOI: 10.1111/boj.12007 link ニュース記事
トゲには、茎や葉に当たるもの、葉の一部が変化したもの、表皮の突起に由来するものなど、さまざまなものがある。また、食害回避よりも他の植物に絡みつくことが主な役割と考えられるトゲも少なくない。 →トゲ

成長中の若くやわらかい葉では毛が密についていて、成長が進んで硬くなるにつれて取れてしまうことが多い。

シロダモシロダモ(クスノキ科)の若葉は毛に覆われて白~金色に輝くが、成長するにつれてほとんどの毛が取れてしまう
シロダモ
シロダモ(クスノキ科)の葉の表面。左から、新葉・やや成長した新葉・古い葉、上が葉の上面(向軸面)・下が下面(背軸面)。

ムシトリナデシコムシトリナデシコ
ムシトリナデシコ(ナデシコ科)は、花の下の茎の一部が茶色い粘着帯となっている。

ノアザミ
ノアザミ(キク科)の総苞は粘液を出す。アブラムシが粘液に捕らえられて干からびている。

4-6-4. 天敵を常駐させる生物的防御
アリを招く花外蜜腺

イタドリ・アカメガシワ・サクラ・ホウセンカ・ヘチマなどでは、葉柄や葉身のつけねにイボ状の突起やクレーター状の丸いくぼみがある。これらの突起やくぼみは、特に若葉や若枝では、蜜を分泌し、花外蜜腺[extrafloral nectary]と呼ばれる。

フヨウやオクラ(アオイ科)では、萼片のつけね向軸面から蜜が出る。花の外側に分泌されるので、広い意味では花外蜜腺に含めることができる。

花外蜜腺には蜜を集めるアリが見られることが多い。また、アリの種によっては、他の巣のアリに奪われないように蜜腺に常駐することもある。葉の基部にアリがいることは、食害昆虫の移動や摂食を妨げると考えられている。

花外蜜腺

ソメイヨシノソメイヨシノ(バラ科)。サクラの仲間は、葉身基部か葉柄に蜜腺がある。
ソメイヨシノソメイヨシノ

オクラ
オクラ(アオイ科)。萼の基部からしみでる蜜にアリが集まっている
ナス科ナス属のSolanum dulcamaraは花外蜜腺は持たないが、食害による傷口から糖分の多い液を分泌してアリを誘引する。
植物を守る甘い出液 (Nature Plants: 注目のハイライト)
ダニ室

樹木の葉の裏面の葉脈分岐点には、小さな空洞(クスノキなど)・ポケット状の構造(ホルトノキなど)・細かい毛の茂み(ヤマボウシなど)など、微細な生物の「隠れ家」になるような構造(ドマティア[domatia])がある。これらにはダニの住居・産卵場所として使われることが多いので、「ダニ室」と呼ばれる。ダニ室には食害をするダニがいることもあるが、他のダニを捕食するダニが住んでいることもある。

クスノキ
クスノキ(クスノキ科)の葉の基部。脈の分かれ目のところが膨らんでいる。裏側には小さな穴がある。

クスノキの葉のダニ部屋膨らみのところの断面。

ホルトノキ
ホルトノキホルトノキ
ホルトノキ(ホルトノキ科)の葉脈分岐点にはポケットがある。若い葉のポケットには、しばしばカブリダニ(肉食性のダニ)が見られる。

ヤマボウシヤマボウシ(ミズキ科)の葉脈分岐点には茶色の毛がかたまっている。こういうところもダニのすみかとなる。

サンシュユサンシュユ(ミズキ科)の葉脈分岐点。楕円形の暗い影はダニ。

参考URL: 植物の微細構造と動物の関係(東京工業大学幸島研究室)
4-6-5. 食害に対抗するさまざまな特徴
低い草形

頂端分裂組織が地表すれすれの低いところにあると、葉が食害を受けても分裂組織が残り、再生できる可能性が大きい。イネ科にはこのような特徴を持つものが多く、アフリカのサバンナ[savanna]や放牧地など草食性の哺乳類(シカ科・ウシ科など)の個体が多い場所では、強い食害圧によってイネ科が優占する草原が広がる。

同じ理由で、ひんぱんな草刈りが行われる場所も、しばしばイネ科の草原となる。
チガヤ
草刈りが行われる土手に広がるチガヤ(イネ科)の草原

草食性の哺乳類が多い場所では頂端分裂組織が低い草形に変化して持ちこたえる種もある。

ツクシアザミ花ツクシアザミ(キク科)。ふつうは左のように背が高くなる。シカの個体数が多いところでは、下のような低い円錐型の草姿になりながらも、鋭いトゲで茎頂を守り枯死を免れる。他の植物が減ったぶん株数は多くなる。
ツクシアザミ

バライチゴシカの食害圧下のバライチゴ(バラ科)

突発的な集中開花・結実

花や果実の数は、気候や日当たりの変化によって同じ個体であっても年毎に変わる。しかし、中には、一見説明がつかないほどの極端な変動をする植物がある。

ネザサ開花しているネザサ(イネ科)
ネザサ開花後のネザサ群落は、枯れ上がった桿が目立つ

タケ・ササ(イネ科)[bamboo]の多くは、数十年の寿命をもち、種によって決まっているとされる(マダケなどでは120年に及ぶといわれる)。寿命が来るまで開花せずに成長を続け、最期の年に地下茎に貯えた栄養の全てを費やして開花・結実して枯死する。1つ1つの笹原や竹藪は、数十年に一度、全てが一斉に開花・結実して大量の種子が生産し、枯れてしまう。

ブナやナラ(落葉性のコナラ属)では、2年から数年に一度、多くの個体が多数の種子をつける「豊作年」がある。豊作年の間に凶作年(多くの個体が種子をあまりつけない)と並作年(豊作年と凶作年の中間)が入る。このような、個体どうしが同調して豊凶の繰り返しことをマスティング[masting; mast seeding]という。

東南アジアの熱帯雨林では、1年から数年ごとに多数の樹種が種ごとに時期をずらしながら一斉に開花する現象が知られている(竹内 2014)。

毎年ある程度コンスタントに開花することと比べて、年毎に開花数が極端に変動することにどのような利点があるのかには、さまざまな説明があるが、主要なものは以下の2つだ(Kelly 1994, Kelly & Sork 2002)。

  1. 種子食害者の飽和
    毎年似たような量の種子ができるよりも、豊作年と凶作年がある方が多くの種子が食べられずに済む。種子はさまざまな食害者(タケ・ササの場合はネズミや昆虫など)の食物となっている。種子ができない/少ない間、食害者の数は食料が少ないことで抑制されている。今までなかった大量の種子ができると、食害者が食べきれる量をはるかに超えるため、種子が食害を免れる確率が非常に高くなる。ササ・タケのように豊作年の間隔がとんでもなく長いか、豊作・凶作の周期が不規則だと、いっそう効果的になる。この説明を食害者飽和仮説[predator satiation hypothesis](Janzen 1976)という。
  2. 風媒による送受粉の成功率を高める
    送受粉の特性によっては、短い期間内で大量の花が咲く方が、柱頭に他の個体の花粉が付着する確率が高くなる。例えば、風媒花では、
    1. 毎年n個の花が咲く
    2. 3年に1回3n個の花が咲く
    を比べたとき、(B)では空中の花粉の密度が(A)の3倍で、受粉率(柱頭に花粉が1個以上つく確率)は、(A)の受粉率が0.1のときは(B)では0.271、0.2なら0.488となる。

これらの仮説は、大量開花の年とそうでない年で種子の食害率や結実率(花が果実となる割合)を比較することで検証できる。しかし、簡単に想像できるように、膨大な時間・労力か大変な幸運(またはその両方)を必要とする。


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