1-4. 表皮

あらゆる器官の外側は表皮[epidermis]で覆われている(木の幹のように、後から取れてしまうことはある)。表皮の細胞で目立つ特徴を3つ挙げる。

1-4-1. クチクラとクチクラ表面のワックス

表皮の細胞の空気に接する面では、細胞壁の外側にクチン[cutin](不飽和脂肪酸の重合体)とワックス(蝋:ろう)[wax](非水溶性の脂肪酸エステル)で出来た、クチクラ[cuticula]と呼ばれる透明で水を通さない層がある。クチクラの表面にはさらに細かいワックスの粒(形はいろいろ)が一面に分布している。葉や茎・果実・種子の表面が水を弾くのは、クチクラと表面のワックスのためで、雨水が内部に侵入したり、雨水に細胞内の水溶性物質がしみ出したり、また乾燥したときに水分が蒸発したりするのを防ぐはたらきがある。また、紫外線による障害や細菌・菌類の侵入を防ぐことにも役立っているらしい。

Biological Interfaces and Biomimetic Surfaces - Research | Nees-Institut für Biodiversität der Pflanzen
ニンニクの芽
ニンニク(ヒガンバナ科)の茎の横断面・表皮付近(徒手切片)。軽くサフラニン染色してありクチクラが赤く染まっている。表皮がくぼみ込んでいるところには気孔がある。このように、孔辺細胞が他の表皮細胞より沈み込んでいるような気孔は、乾燥地の植物によく見られる。

ノビル
ノビル(ユリ科|ネギ科)の茎の横断面・表皮付近。クチクラは淡いピンクに染色されている。

ハマヒサカキハマヒサカキ(ツバキ科|ペンタフィラクス科)の葉の断面(表皮付近)。表皮の上面をクチクラ(純白に見える層)が覆っている。

ヤブツバキヤブツバキ
ヤブツバキ(ツバキ科)の上面(向軸面)の表皮と下面(背軸面)の表皮。上面の方がクチクラが厚い。

ヤブツバキ上面のクチクラは、雨水の浸入を防ぐ。

時間が経つにつれて、クチクラは雨などによって取れていく。草に水をやるときは、やたらに葉や茎を濡らさないように、なるべく根ぎわを狙って水を掛けた方が、クチクラの損失が少ない。

ワックスは一般に表面の光沢を与える。葉や果実の表面をこすると、ワックスの粒や塊がつぶれて細かい凸凹が平坦になり、やや光沢を増すことが多い(リンゴの果実などが好例)。ワックスの量が多いと表面は粉を吹いたように白くなる。ニンニクの芽の表面が白っぽいのはワックスのせいで、指でこするとワックスがつぶれて透明になり、地の緑色がでてくる。ヤナギ類の葉の裏にはワックスの塊がぎっしりと並んでおり、指でこするとワックス塊のこわれ方やつぶれ方によって、白味が強まったり弱まったりする。有機溶媒を染ませた布でこすると、容易に地の緑色が出てくる。

オオタチヤナギオオタチヤナギ(ヤナギ科)の葉の裏面。アセトンが染みた布で拭いた部分は緑色が露出している。

オオタチヤナギオオタチヤナギ
葉裏面のSEM写真。スケールは100 μm / 10 μm。2枚目の写真の右端近くでは、ワックス塊がつぶれて平坦になっている。
1-4-2. 気孔

葉や茎など緑色をしていて光合成をする器官では、表皮細胞の隣り合った細胞の間にすきま=気孔[stoma; 複数形 stomata]が出来ることがある。気孔は、両側の2つの細胞(孔辺細胞 [stomata guard cell])の形が変わることで開閉する。

ムラサキツユクサムラサキツユクサの葉裏面

ムラサキツユクサムラサキツユクサムラサキツユクサ
ムラサキツユクサの気孔が開→閉と変化するようす(0分後・1.5分後・3分後)(→およそ1分を1秒で表示する連続画像))

ツユクサツユクサの葉裏面

トウモロコシ葉気孔
トウモロコシ(イネ科)の葉の気孔。

タブノキタブノキ(クスノキ科)葉裏面の気孔(SEM像)

気孔は、裏側(下面・背軸面)と表側(上面・向軸面)の両方にあることもあるが、表裏がはっきりとしている葉では裏側(下面・背軸面)だけにあって表側(上面・向軸面)にはない(あるいは少数のみしかない)ことも多い。これは雨水の浸入を防ぐのに有利だからと思われる。葉が水面に浮いているとき(スイレン・トチカガミなどの浮水葉)には、逆に、気孔の多くは葉の表側(向軸面)にある。

テッポウユリ(園芸品)テッポウユリ(園芸品)テッポウユリ(園芸品)
テッポウユリ(園芸品)の表皮(スンプ像)。順に葉の向軸面、背軸面、茎。

トチカガミ
トチカガミ(トチカガミ科)の浮水葉・向軸面の表皮(スンプ像)。

花被片や果実、種子などでも、成長過程で光合成をする時期があるものには、しばしば表皮に気孔が見られる。

テッポウユリ(園芸品)テッポウユリ(園芸品)テッポウユリ(園芸品)テッポウユリ(園芸品)
テッポウユリ(園芸品)(ユリ科)の花被片の表皮。順に、内花被片向軸面、内花被片背軸面、外花被片向軸面、外花被片背軸面。外花被片背軸面は、つぼみのときには薄緑色で、外側に露出していてる。

ウチワサボテンウチワサボテンの1種(サボテン科)の茎表面のスンプ像。

セイヨウカラシナ
セイヨウカラシナ(アブラナ科)の花柱表面(SEM像)

1-4-3. 毛

植物の表面に[hair; trichome]が生えていることがよくある。毛は表皮細胞から外側に細胞分裂が起こって形成される。

毛の役割としてもっとも一般的なのは、植物体を食害や物理的損傷・紫外線などから守ることであろう。若くて組織がやわらかいときには毛に覆われていて、成長して硬くなったときには毛が取れてしまう例が多い。また、密生した毛は表面のまわりに空気の層を保ち、高温・低温・乾燥の影響をやわらげる。送受粉に関係する花びらや雄しべの毛、種子や果実の散布のための長い毛も例が多い。

マルバツユクサ
マルバツユクサ(ツユクサ)葉裏面の毛

セイタカアワダチソウセイタカアワダチソウの茎の毛の拡大図。縦に連なった4つの細胞からできていて、先端の細胞は先がとがっていて、細胞壁も厚い。

カタバミカタバミ(カタバミ科)の花糸・花柱の毛。毛の表面にイボがある。

マルバツユクサやセイタカアワダチソウの毛のような単純な毛も多いが、植物体上の毛のかたちや細胞数は千差万別で、種類によって、または同じ植物でも器官によってさまざまだ。

鱗毛
マメグミマメグミ(グミ科)の葉の裏

ナワシログミナワシログミ(グミ科)の果実の表面
オオバグミ
オオバグミ(グミ科)の葉の裏

シイやグミの葉の裏側は鱗毛という特殊な形の毛で覆われていて、光を乱反射するため金色か銀色に輝いている。

星状毛
アカメガシワアカメガシワ(トウダイグサ科)の葉の星状毛

オオバヤドリギオオバヤドリギ(ヤドリギ科)の葉の裏は、びっしり並んだ星状毛で褐色になっている。
オオバヤドリギ

T字毛・Y字毛
サンシュユ
サンシュユ(ミズキ科)の葉の裏。葉脈分岐点近くには褐色のY字毛、他は柄が短い白色のT字毛が分布する。

クモ毛
エビヅル
エビヅルエビヅル(ブドウ科)の葉裏には細く長い毛が縦横に重なる。クモの巣に喩えて「クモ毛」という。

腺毛
ミントの1種
ミントの1種(シソ科)の葉(下面)のSEM像。腺毛が点在する。

フレンチラベンダー
ラベンダー(フレンチラベンダー)の葉(上面)のSEM像。枝分かれを繰り返す毛と、大小2種類の腺毛が混在している。

種類によっては、先端に分泌細胞がついた毛(腺毛[glandular trichome])を持ち、分泌細胞から粘液や匂いを放出している。シソ科の植物は、全身に腺毛があり、腺毛の先端には分泌細胞4個がある。細胞からしみだした液体が揮発して匂いとなる。匂いの化学成分は種類によって違うため、シソ科の植物は種類により特有の匂いを放っている。

モウセンゴケモウセンゴケの葉。粘液を分泌する腺毛で覆われている。

刺毛
ホソバイラクサホソバイラクサ(イラクサ科)の茎の刺毛

イラクサ(イラクサ科)の仲間は葉や茎に、基部が太く、先端が尖った「刺毛」と呼ばれる毛を持つ。何かに刺さると先端から液を出す。液を「注射」された皮膚は、ひりひりと痛む。


テキスト目次に戻る
ホームに戻る