1-2. 細胞内の貯蔵物
1-2-1. 蓚酸カルシウム・タンニン
ドングリ類のタンニン含量と食味
種名タンニン含量(%)食味
シイ0.0渋味がなく美味
マテバシイ0.4~1わずかに渋味
ウバメガシ1.7かなり渋い
コナラ
ミズナラ
カシ類
3.1~5.1渋くて食べられない
タンニン含量はドングリの利用技術と澱粉の特性(農研機構)による。食味は著者の主観。

蓚酸カルシウムタンニンは、細胞内の液胞に、水溶液や結晶[crystal]のかたちで含まれている。人間の舌には、蓚酸カルシウムは「えぐみ」に、タンニンは「渋み」と感じられ、量が多すぎると食欲を失わせる。例えば、ドングリ(ブナ科ナラカシ属の果実)では、タンニン含量が多いほど渋味が強くなり、コナラなどではドングリを食用にするにはアク抜きが欠かせない。

これらのことから類推されるように、動物の食害を防ぐ役割があると言われている。両方とも多数の植物のさまざまな器官にあって、植物を食用にするときの障害となる。野菜はこれらの含有物が少ないものを選抜してきたものだが、野生植物の中には「アク抜き」(茹でたり、水にさらしたり、アルカリ性の水溶液に浸すことによって蓚酸カルシウム・タンニンを取り除く)や「渋抜き」(タンニンを酸化して難水溶性にし、渋みを和らげる)が必要なものが多い。

ニワトコニワトコ
ニワトコの茎の髄(乾燥したもの)の断面には、点々と褐色のタンニン細胞が見られる

アマドコロの茎アマドコロの茎の細胞に含まれている針状の蓚酸カルシウム結晶。

ムラサキツユクサムラサキツユクサ(ツユクサ科)葉裏の表皮を剥がすと出てくる針状結晶

ツユクサツユクサ
ツユクサ(ツユクサ科)葉裏の表皮細胞に含まれる小結晶群

マルバツユクサマルバツユクサ
マルバツユクサ(ツユクサ科)葉裏の表皮細胞に含まれる結晶群

タンニンはタンパクと結合して安定化させる作用を持つポリフェノール類の総称で、化学的にはさまざまな物質を含む。ポリフェノール類は、タンニンの他、フラボノイド・アントシアンなどの植物色素やカテキンなどさまざまな物質を含んでいる。

「タンニン」はもともと「皮を鞣す(なめす)」(英語で"tan")物質を意味する。原料である動物の「皮」[skin]を「革」[leather]に加工する過程で、脱毛や軟化処理に続いて、皮を鞣す(なめす)作業「鞣皮(じゅうひ)」が行われる。鞣皮は、皮の主成分であるコラーゲン線維(タンパクの一種)に他の物質を結合させ、皮の安定性と柔軟性・強靱さを高める作業で、樹木の皮から取ったタンニンが主に使われた。現在の皮革工業では、植物から取ったタンニンだけでなく、塩基性硫酸クロムなどの薬品も使われている。
ポリフェノール類の褐変
ムラサキケマンムラサキケマン(ケシ科)。種子が熟する最終段階では、タンニンを含む種皮最外層が急速に硬化し白→褐色→濃褐色→黒と色を変える。

タンニンを含むポリフェノール類は酸化によって比較的敏速に褐色~黒色、難水溶性になる。また、酸化されたタンニンには細胞を硬くするはたらきもある。表面が堅くて黒っぽい種子では、種皮の表皮細胞が非水溶性タンニンで埋め尽くされていることが多いが、種子が熟するときの種皮の色・硬さの変化も、結構速く起こる。

酸化酵素によるポリフェノール類の褐変は、日常生活のさまざまな場面で見られる。

リンゴリンゴ
切ったリンゴ(左)と穴を空けて時間経過の後(右)。両方とも上はそのまま、下は電子レンジで加熱したものを比べている。時間が経つと切り口はわずかに、穴はやや濃く褐色に色づく。加熱した方は、酸化酵素が失活しているため、変色が起こらない。

果物や野菜の切り口が茶色に変色するのにも、酸化酵素によるタンニンの酸化が働いている。切り口を硬化してダメージを防ぐ役割があるのかも知れない。

村田容常氏のページ中の「酵素的褐変に関する食品学的研究」
カキの果肉には、特に熟する前はタンニン細胞が多く、青いカキの果実から採ったタンニン液を発酵させた「柿渋」は、漆や膠とともに防水性や耐久性を与える塗料として使われた(「柿渋について」大杉型紙工業)。

紅茶や烏龍茶が茶色なのは、茶の葉をつぶしたり引きちぎって適温に保つことによりポリフェノール(カテキンなど)の酸化反応を起こさせるためである。緑茶の場合は、茶の葉をすぐに蒸して、水蒸気の高温で酵素を失活させ、鮮やかな緑色を保つ。

モチノキ科やモクセイ科などの葉を、強く熱したり、逆に強く冷やしたり、あるいは細い棒の先で引っ掻くと、葉の色が褐色から黒色に変わる。これは、おそらく、細胞内の微細構造が破壊されて酸化酵素がタンニンを酸化するためだと思われる。このことを利用すると、葉に棒で字を書くことが出来る(「葉書」の語源、という説もある)。また、線香や煙草、グルーガンなどの点状の熱源を当てるとリング状の変色部ができる(中心部は、酸化の前に酵素が熱で失活するために変色しない)。このリングのことを「死環」という。

タラヨウタラヨウタラヨウ
タラヨウ(モチノキ科)。葉に熱源を軽く押しつけると短時間でくっきりとした死環が出る。尖った物で字を書くこともできる。右下は、カッターで表面に傷を付けた。

タラヨウ
タラヨウは、葉書のゆかりで郵便局に植えられていることがある

モチノキ
モチノキ死環が出た葉の断面(種類はモチノキ(モチノキ科))。図の上半分は緑色を保っている部分。下半分が熱で黒変した部分で、柵状組織や海綿状組織の細胞の中身が薄く茶色になっている。
1-2-2. デンプン粒・脂肪粒

デンプン粒・脂肪粒は養分の貯蔵の手段で、デンプン粒は地下茎・根や種子、脂肪粒は種子の細胞によく見られる。光合成で作られた糖は葉肉細胞の葉緑体にデンプン粒として一時的に貯蔵され、徐々にショ糖に変換されて篩管を通って他の器官に転送される。地下茎・根や種子のデンプン粒は、色素体の一形式であるアミロプラスト[amyloplast]に貯蔵されている。

地下茎の細胞に見られるデンプン粒
ジャガイモジャガイモ
ジャガイモジャガイモ
ジャガイモジャガイモ(ナス科)の塊茎(イモ)の断面。細胞内にはデンプン粒がたくさん貯えられている。

デンプン粒は部分的な結晶構造によって特殊な屈折性をもち、偏光で輝部と暗部に塗り分けられる。暗部は偏光顕微鏡では十字形、微分干渉顕微鏡では筋状か砂時計形に見えることが多い。

ホシダホシダ
ホシダ(ヒメシダ科)地下茎の横断面
貯蔵根の細胞に見られるデンプン粒
サツマイモサツマイモ
サツマイモ(ヒルガオ科)貯蔵根(イモ)断面の細胞
種子の胚乳に見られるデンプン粒
トウモロコシ
トウモロコシ(イネ科)の胚乳の断面。細胞内はデンプン粒が隙間なく詰まっている。
トウモロコシ
トウモロコシ
種子の子葉に見られる脂肪粒
ベニバナベニバナ
ベニバナベニバナ
ベニバナ(キク科)の子葉断面
1-2-3. 乳管・鍾乳体・珪酸体

乳管・鍾乳体・珪酸体などは、一部の植物に見られる構造だ。

キク科の一部(タンポポなど)・イチジク属・多くのトウダイグサ科・キョウチクトウ科・キキョウ科などでは、葉や茎をちぎると透明でない(白が最も多い)粘り気のある汁(乳液[latex])が出てくる。乳液は乳管[laticifer ]と呼ばれる細長い細胞に貯えられている。

テイカカズラ
テイカカズラ(キョウチクトウ科)の葉・茎の断面からは白色の乳液が滲み出る

アシタバシラユキゲシ
左―アシタバ(セリ科)・右―シラユキゲシ(ケシ科)。アシタバやケシ科の一部は黄色~赤色の乳液を持つ。

乳管
インドゴムノキ(クワ科イチジク属)の葉の組織に見られる乳管。左上の写真で、ところどころにある黒い点(見にくいが)が乳管だ。左下は横から見たもの、右は横断面。乳液は白いが、不透明なため、顕微鏡下では茶~黒に見える。

イラクサ科・クワ科・ニレ科などでは、表皮近くに大型の細胞があり、炭酸カルシウム主体の鍾乳体[cystolith]と呼ばれる塊が、表皮側から柄でぶら下がるように入っている。
鍾乳体
インドゴムノキ(クワ科イチジク属)の葉の組織に見られる鍾乳体。葉の表側の方が数が多く、鍾乳体も大きい。

鍾乳体
インドゴムノキ(クワ科イチジク属)の葉の組織に見られる鍾乳体。左右は同じ鍾乳体で、右側は酢酸カーミン液で染色してあり、酢酸によって炭酸カルシウムが溶け出している。

カラムシ
カラムシカラムシ(イラクサ科)の葉の断面(上)と表面透明化像(左)。表皮の細胞の一部は、大きく飛び出しており、鐘乳体を含んでいる。

イネ科の葉が枯れても比較的堅いのや、触ると手を切ることがあるのは、ケイ素主体の珪酸体[silica body]が表皮にあるためだ。珪酸体はさまざまなグループの植物に含まれており、グループによって形状が違う。イネ科は、とりわけ珪酸体を多量に含むグループだ。植物が枯れて分解されて土に帰ってからも土の中にガラスのような粒(プラント・オパール)として長期間にわたって残るため、堆積物から過去の植生を推定したり、遺跡の出土品から当時利用された植物を推定するのに使われている。


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