1-1. 植物のからだの特徴
1-1-1. 植物のからだ=シュートと根の集まり

巨大な樹木も、ごく小さな草花も、植物のからだは、たった2種類の単位、

  1. [root]
  2. シュート([shoot]; [stem]とそれにつく[leaf])

で出来ている。単位の数と配置を変え、そして、ときに個々の単位に特殊な形とはたらきを持たせることで、さまざまな生き方をしている。例えば、花は、有性生殖器官として特殊化したシュートだし、イモはシュート(ジャガイモなどの場合)あるいは根(サツマイモなどの場合)が貯蔵器官として特殊化したものだ。

シュート・根
植物のからだの模式図。左の図では、個々のシュート(青)・根(赤)を矢印で表わしている。矢印の先端部に頂端分裂組織がある。右の図では、青く塗りつぶされた部分がシュートの集まり(シュート系)、赤く塗りつぶされた部分が根の集まり(根系)。中間の白い部分(胚軸と子葉)は、実質的にはシュートの一部としてはたらくことが多く、シュートの基部と見なされることもある。

1つの植物が持つシュートをまとめてシュート系[shoot system]、根をまとめて根系[root system]と呼ぶ。つまり、1つの植物は、シュート系と根系に大別される。

このため、植物の生活様式は、多細胞動物の多く(以下、単に「動物」)と、次のような点で違っている。

成長

成長は、(単位を付け足すこと)+(それぞれの単位の成長)で行う。

植物の成長
動物の成長植物(上)と動物(左)の成長様式を示す模式図

多くの多細胞動物では、発生の初期に器官が分化を終える。そのため、(種類が同じであれば)1個体当たりの器官の数(眼の数、足の数、など)が決まっている。植物では、成長につれて新しい器官が、次々と付け加わっていく。大きい個体の方が多数の単位からなることが多く、植物のからだのサイズの個体差が、動物に比べて大きい(このことを「サイズの可塑性が大きい」と表現することもある)。

セイヨウカラシナ
セイヨウカラシナ(アブラナ科)のすぐ近くに生えていた大小2個体。大きい方の個体は、写真に収まりが良いように三つ折りにしてある。中央右に小さい方の個体がある。大きい方の個体は、シュート・葉・茎の数が多く、1つ1つのサイズも大きい。茎の長さで見ると両者の比は約5倍、花の数で見ると少なくとも100倍はある。
ギネスブックに認定された成人の身長の最大・最小は272cmと54cmで、比は約5倍だ。

このことは、「ほとんどの種類が共通の食物(光と土壌の水溶液)を取る」「多くの食物を取るのには、動くよりも面積を広くする方が有利」という植物のくらし方にかかわっている。動物のようにからだの各部分が役割分担するよりも、同じ構造を増やしていく方が合理的なのだろう。また、「体が大きくなったら食べ物を変えるという必要がない」ことは、動物によく見られるような「変態」[metamorphosis](成長過程での劇的なモデルチェンジ)が、植物ではほとんど見られない理由の1つだろう。

有性生殖: 「再利用」の動物、「使い捨て」の植物

動物と植物では、有性生殖器官の作られ方・使われ方に違いがある。

動物 植物
有性生殖器官 卵巣・精巣・交尾器など 花/果実・花序/果序
雄1セット、雌の1セット
あるいは雌雄1セットずつ
1~複数
多くの場合、個体が大きいほど多くなる
作られ方 胚の段階で1回作られる 成長過程で次々と枝先に作られる
使われ方 同じ生殖器官が一生の間「再利用」される 1回使われた生殖器官は「使い捨て」られる
次の繁殖期には新しい生殖器官が使われる

このことは、植物の性別(雌雄性)を、動物と比べものにならないほど複雑で多様なものにしている。

無性生殖

動物では、器官の細胞は分化を終えていて、他の器官の細胞を生み出す能力が乏しくなっている。植物のシュートや根の細胞は、植物体のあらゆる器官の細胞を生み出す能力(分化全能性)を失っておらず、一部のシュートや根を身体から切り離し、切り離された単位が新しい植物に再生することで無性生殖(クローン繁殖)を行うものが多い。農民や園芸家は古くからこの性質を利用してきた(挿し木・挿し芽・茎頂培養・多くのイモ類の増殖法)。

休眠

休眠(活動に適さない時期を、一時的活動停止状態で過ごす)のときには、活動に適した部分を切り離して休眠に適した部分だけを残す。樹木の落葉や、草がイモや球根を残して枯れるのは、この例。

統合性

別々の器官どうしを横断的につなぐようなしくみ、例えば、循環系や消化器系のようなものは、維管束のつながり以外にはほとんどない(あってもごく原始的なもの)。特に、筋肉や神経系のような、からだの各部分を瞬時に統合して働く仕組みを作り上げることは出来ない。

1-1-2. シュート・根は頂端分裂組織がつくりだす
ジャガイモ タマネギ
左―ジャガイモ(ナス科)の茎頂; 右―タマネギ(ユリ科)の根端の縦断面。分裂組織の細胞は(ファストグリーンでよく染まっている)は、液胞の量が少なく、細胞に占める細胞質ゾルの割合が高いため濃く染色される。

シュートも、根も、2つのはじっこ、先端(頂端)[apex]と基部[base]を持つ。堅い言い方をすれば、シュート・根は「極性を持つ軸構造」である。
先端には、分裂組織[meristem]という、細胞分裂が活発な部分がある。シュート・根の先端にある分裂組織を頂端分裂組織[apical meristem]といい、シュートの頂端分裂組織を茎頂分裂組織[shoot apical meristem]、根の頂端分裂組織を根端分裂組織[root apical meristem]という。

頂端では、細胞分裂で出来た細胞が後方へ付け加わっていく。頂端分裂組織から離れるほど、古い細胞で構成されているから、シュートや根を空間的に先端→基部へとたどることは、時間的に現在→過去へとたどることにもなる。頂端から離れるにつれて分裂の頻度が落ちて、代わりに、一つ一つの細胞が軸方向へ伸長する。さらに頂端から離れると、細胞の伸長も余りしなくなり、細胞や組織は、働きに応じた形態の違い(分化[differentiation])がはっきりとしてくる。

タマネギ根端
タマネギ根端の分裂組織の押しつぶし像(酢酸オルセイン染色)。

茎頂分裂組織は、茎を伸ばすと同時に、葉を作り出すはたらきもする。だから、1本のシュートの茎と葉は、同じ頂端分裂組織によって作られる。このことは、茎と葉をまとめてシュートという単位と見なす大きな理由の1つだ。


1-1-3. 地上部と地下部・シュート系と根系

シュート系根系葉緑素はたらき
地上部多数気根
  • 空気中でからだを支える
  • 光合成
  • 水分の蒸散
地下部地下茎多数
  • 土壌にからだを固定
  • 養分の貯蔵(おもにシュート)
  • 土壌から水分+溶質を吸収(根)  

植物体は、生長単位によってシュート系[shoot system]と根系[root system]に大別できる。また、生活上の役割分担によって地上部[aerial part]と地下部[underground part]に分けることができる。「シュート系=地上部」で「根系=地下部」だったら話は単純で分かりやすく、実際にそういう植物もあるが、そうでない例も無数にある。

ジャガイモジャガイモ(ナス科)の地上部と地下部。中心軸は地上・地下ともシュートで、所々から貯蔵用のシュート(イモ)と根を出している。

多年草の多くは地下茎[underground stem]を持っていて、養分を蓄える役割をしている。地下茎は棒状のときもあるけれど、丸いイモのようになっていたり(ジャガイモなど)、ややこしい形の塊になっている(ショウガなど)ときもある。

地上部の根を「気根」[aerial root]という。地下茎ほどふつうではないが、植物体を支える(支柱根)、何かに付着する(付着根)など、さまざまな例がある。

ヤエヤマヒルギ
ヤエヤマヒルギ(ヒルギ科)。幹や枝のかなり上の方から、「支柱根」と呼ばれる太い根を下へと伸ばす。支柱根の先はやがて下の泥土に刺さって木を支える。支柱根の表面の細胞は緑色をしていて、光合成をする。

キヅタキヅタキヅタ(ウコギ科)の付着根

シュート系と根系、地上部と地下部の比率は、次のような制約を受ける。

  1. 水分のバランス: 根系の吸水量と地上部の蒸散量
  2. 養分のバランス: 光合成でできる養分量と根系から取り込まれる養分量
  3. 力のバランス: 地下部が地上部をしっかりと固定できる

だから、やたらと片方ばかり多くなることはふつう出来ないし、植物の種類や生育している環境によっても変わる。例えば、海岸砂丘のような土壌が不安定で水分が少ないところに生えている植物は、多数の長い根をつけて水分と力のバランスを保つことが多い。また、同じ植物でも、乾燥状態で育てると根系の比率が高くなり、逆に湿潤状態で育てるとシュート系の比率が高くなる。鉢植えしている植物では、二、三日水やりをさぼると、盛んに新しい根を出し始めることがある。

草木の植え替えのときにはどうしても根系に損傷を与えてしまうので、葉が落葉したり、シュートが部分的に枯れて、バランスを取ろうとする。しかし、悪くすると植物全体が枯れてしますことがあるので、シュート系が休眠している時期に行ったり、シュート系を刈り込んだり、多めに水やりをすることが多い。挿し木のときに、葉を切り取ってやるのも同じ理屈だ。

植えたての木植えたばかりの木。新しい枝は、少し残して刈り込まれている。

1-1-4. 植物の組織と細胞壁

植物の器官(例えば、葉・茎・根・花びら・雄しべ・種子)を薄切り(切片 せっぺん [section])にして顕微鏡で観察すると、たくさんの細胞の集まり(組織)が見える。こういうときの観察のポイントは、大きく分けて3つある。

  1. 組織をつくっている細胞の並び方
  2. 一つ一つの細胞の特徴: 細胞壁・細胞内の貯蔵物(→1-2)など
  3. 器官内の維管束(→1-3)と表皮(→1-4)の位置

植物の組織の多くは、互いに似通った細胞の集まりだ。しかし、他の細胞と異なる形状が異なる細胞が混じっている場合がある。そのような細胞を異形細胞[idioblast]という。

植物細胞は、原則として、細胞膜で囲まれた細胞質[cytoplasm]の外側に細胞壁[cell wall]を作る。細胞壁はセルロース・ヘミセルロース・ペクチンを主成分とする細胞外マトリックスで、弾性と伸縮性がある。

コルク
コルクコルクの断面に見られる細胞壁(SEM像・スケールは50μm)
植物細胞模式図
植物細胞の模式図。
1―一次細胞壁、2―二次細胞壁、3―細胞質、4―原形質連絡、5―液胞、6―細胞間隙

細胞壁は、隣接する細胞の細胞壁と密着しているか、または、空気で充たされたすきま(細胞間隙)と接している。隣接する細胞どうしの細胞質は、細胞壁を貫通する経路である原形質連絡[plasmodesma; 複数形 plasmodesmata]を介してつながりを持つ。

活発に細胞分裂をしている組織(分裂組織 [meristem])では細胞壁は薄くてあまり強度に貢献しない。また、液胞の占める容積も少ない。

分裂をしなくなった組織では、細胞壁がやや厚くなり、液胞が細胞の容積の多くを占めるようになる。膨らもうとする細胞を細胞壁が押さえつけて、ちょうどチューブとタイヤのような緊張関係を保ち、細胞の生長の可能性を残しつつ細胞に強さを与えている(だから、水が不足して細胞の水圧が下がると、すぐに萎れてしまうし、水不足が解消されれば萎れたのが元に戻る。

植物細胞植物細胞のモデル。細胞壁・サイトゾル(細胞質基質)・液胞だけを示す。水が十分に供給されているとき(左)は、細胞が膨らむ力(1)と細胞壁の反発力(2)が釣り合っている。水が不足すると(右)、液胞が収縮して細胞と細胞壁の押し合いがなくなり、組織の強度が下がる。

オオアレチノギクオオアレチノギク
日照り続きでしおれたオオアレチノギク。葉や茎の上部がしおれて柔らかくなっている。根元に水をやると、1時間後には元に戻った。茎の下の方は、厚壁細胞の骨組みが加わるので、ほとんどしおれていない。

植物細胞模式図

さらに強度が必要な細胞では、もともとの細胞壁(一次細胞壁―左図の1)の内側に追加の細胞壁(二次細胞壁―左図の2)が服の裏地のように付け加わることでもっと厚くなるが、その分生長の余地は少なくなる。二次細胞壁の成分組成が一次細胞壁とあまり変わらないような細胞を厚角細胞(こうかくさいぼう)と呼ぶ(細胞の角のところが特に厚くなることが多いため)。厚角細胞は、ある程度の細胞の成長も可能で、細胞も生きていることが多い。

カボチャ花柄の厚角組織
カボチャ花柄の表皮と厚角組織

カボチャ
カボチャ茎横断面の厚角組織

細胞生長の必要性が少なく、柔軟性よりも剛性が必要な組織(硬くなったとげ・木の材・熟した種子や果実の皮など)には、厚壁細胞(こうへきさいぼう)と呼ばれる細胞が見られる。厚壁細胞の二次細胞壁はリグニンを多く含み、伸縮性を失っている。また細胞自体は死んでいることが多い。厚壁細胞はそのかたちによってさらに細かく分類される。繊維細胞[fiber cell](細胞壁が厚く、全体が細長い形をしている細胞。紙の主成分)、石細胞[stone cell](せきさいぼう; 細胞壁が厚く、「石ころ」の形をしている細胞)などがその例だ。

ヤブツバキ
ヤブツバキ(ツバキ科)の葉の断面に見られる不規則な形をした厚壁細胞

ボケボケ(バラ科)の果実断面・果皮付近。石細胞が散在する。

厚角細胞・厚壁細胞は、ボケ果肉の石細胞やヤブツバキ葉の不規則形の細胞のように異形細胞として存在する場合もあるが、集合して「~組織」と呼ばれる場合の方が多い。厚角細胞から構成される組織は厚角組織[collenchyma]、厚壁細胞からなる組織は厚壁組織[sclerenchyma]と呼ばれる。細胞壁が薄いままの細胞(柔細胞)からなる組織は、柔組織[parenchyma]と呼ぶ。

セイタカアワダチソウ茎断面
セイタカアワダチソウ茎断面に見られる繊維細胞からなる厚壁組織。篩部をはさむように両側を占めている。

カボチャ
カボチャ茎横断面の厚壁組織

スイバ茎断面組織
スイバの茎の維管束付近の断面(コットンブルーで薄く染色)。左が茎の外側、右が中心側にあたる。厚角組織(1)・繊維細胞からなる厚壁組織(2・5)・篩部(3)・導管(4)・葉緑体を持つ柔細胞からなる柔組織(6)といった多種多様な細胞が見られる。

濾紙濾紙
紙(濾紙)のSEM像。木材チップから取り出した細長い繊維細胞が積み重なる。製造過程でセルロース以外は大部分が除去されている。スケールはそれぞれ500μm・100μm。
細胞の配列
細胞の配列植物細胞の配列の模式図。矢頭と数字は、細胞分裂の方向と相対的な順序を示す。

隣り合った細胞は、両方の細胞からつくられた2枚の細胞壁でつながっている。細胞分裂のときには、出来た2つの細胞は新しくできた細胞壁で互いにつながり合うことになる。だから、植物組織での細胞の並び方は細胞分裂[cell division]の順序と方向で決まり、逆に言うと、細胞の並び方を見れば、分裂の順序と方向をある程度推定することが出来る。

細胞列[cell row]
タマネギタマネギ(ユリ科|ヒガンバナ科)の根の縦断面に観られる細胞列。

細胞分裂が常に同じ方向でだけ起こると、細胞は一列に並ぶことになる。若い根の組織が好例。

細胞層[cell layer]
ダイコンの子葉の組織
ダイコン(アブラナ科)の種子の切片で見られる子葉の組織。表皮と表皮に覆われた方向性のない組織とが区別できる。

細胞分裂がある一平面上の細胞数を増やすような方向で繰り返されると、細胞がその面に整然と並ぶことになる。断面を見ると、このような分裂を垂層分裂[anticlinal division]と言う。多くの植物器官では、表皮細胞は垂層分裂を繰り返すので、表皮はその内側からはっきりと区別された細胞層になる。細胞がしっかりと密着して外と中の仕切りになるためには、このような分裂パターンの方が適しているから、このことは理に適っている。組織によっては複数の細胞層が積み重なった構造をとることも多い。垂層分裂と直交する方向で起こる細胞分裂を並層分裂[periclinal division]、どちらとも言えないような分裂を斜分裂[oblique division]という。また、縦長の細胞で構成された細胞層を柵状組織[palisade; palisade parenchyma]と呼ぶ。

方向性のない組織

細胞分裂がさまざまな方向で行われると、出来た組織に細胞の配置も不規則なものになる。断面では、細胞はまるで野面積みの石垣のような並び方をしている。このような組織では、細胞分裂後の細胞の成長により、細胞間にすきま(細胞間隙 [intercellular space])が出来ることが多い。すきまが特に多い、すかすかな組織のことを海綿状組織[spongy tissue; spongy parenchyma]と呼ぶ。多くの植物器官ではこのような、方向性のない組織がもっとも多くの体積を占めている。

植物の器官の断面を観察すると、(1)(2)(3)や、(1)と(2)の中間、(2)と(3)の中間のようなさまざまな組織からなっていることが分かる。

特殊な例

胚嚢や種子の内乳(胚乳の一種)では、細胞核だけが分裂を繰り返し、核がたくさんに増えて後で細胞膜や細胞壁が作られる(植物の種類によってはそうでないのもある)。こういう場合には、細胞の配列からは細胞分裂の順序や方向は分からない。胚嚢では、大きな細胞の中に小さな細胞が何個か(ふつうは6個)埋め込まれている。花粉も、大きな細胞の中に1個か2個の小さな細胞が埋め込まれている。

1-1-5. 植物の組織と葉緑体

ニンニクの芽の輪切りニンニクの茎の断面(徒手切片、軽くサフラニン染色をしている)

光合成をする細胞では葉緑体が細胞膜の近くに並んでいる。光合成をしない細胞では葉緑体が見られないか、ほんの少ししかない。 葉緑体のせいで植物は緑に見える。しかし、緑色に見える器官でも、葉緑体は器官の表面に近い、光が届くところだけにある。茎や雌しべのようにある程度厚みがあるものでは、中の方の細胞には葉緑体がない(左図)。葉のように薄っぺらなものでは、表皮以外の細胞はほとんどが葉緑体をもっている(どの器官でも、表皮の細胞は、気孔の孔辺細胞を除いては葉緑体がないことが多い)が、キャベツや白菜のように幾重にも重なっているときには内側の方へ行くほど緑色が薄まり、最後には白っぽくなる。もちろん、花びらや果実のように緑色以外の色を見せびらかしている器官や、地下器官のように光が当たらないものは、全体が葉緑体のない細胞からなっている。

「葉緑体がない」というのは少し不正確で、葉緑体に相当する細胞小器官(色素体 [plastid])はある。キャベツや白菜では、外側の葉が生長して反り返ると、光が当たるようになった内側の葉では、色素体で葉緑素が合成されて葉緑体となり、緑色の葉に変わっていく。明るいところに置いてあったジャガイモがうっすらと緑色になるのも、同じ理由による。枯れた葉では、葉緑体の葉緑素が分解されていくため、やはり緑色は失われていく。


1-1-X. 細胞と組織の観察と顕微鏡
雌しべの縦断と横断雌しべの横断(1~3)と縦断(A・B)

単細胞生物や、単離された細胞は、そのまま観察することが出来るが、組織の中の細胞を観察するためには、組織を薄切り(切片)にして、光が十分透過するようにしなくてはならない(場合によっては、平たく押しつぶして観察する場合もある)。切片は、高倍率で観察するほど薄くする必要があり、光学顕微鏡の切片は1~100μm(マイクロメートル)、透過型電子顕微鏡では0.1μm=100nm(ナノメートル)以下の厚さに切る。

薄切りにする方向は、目的に応じて決める。軸に対して垂直に切ることで得られる切片を横断切片、軸に平行に切って得られる切片を縦断切片という。

生物の組織は切片にすると透明なものが多い。ただ、切片が厚いときは、物質によって光の透過率や屈折率が違うので、だいたいは問題なく観察できる。

屈折率が違うものを透過した光どうしでは波形のずれが生じるため、その境界で波形が打ち消し合っったり重なり合ったりして明暗の縞ができる: 同じ理由で、コップに水を入れて横から透かして見ると水面=水と空気との境界が明るい線と暗い線になって見える。この効果を強調していっそう見やすくするのが「位相差顕微鏡」や「微分干渉顕微鏡」である。

光学顕微鏡の場合、薄い切片では色素によって染色することが必要なことが多い。色素によって染まりやすい物質が違うので、複数の色素を使えば、見やすくなるだけでなく、物質の違いが色で分かるようになる。例えば、植物では、細胞核を染めるヘマトキシリン、リグニンやセルロース(とりわけリグニン)を染めるサフラニン、細胞質やセルロースを全体的に染めるファストグリーンを組み合わせた三重染色がよく使われる。

色素の染まり易さは、物質との化学的な相性によって決まることが多いが、抗原抗体反応(タンパクと免疫グロブリンの反応)や相補的な核酸一本鎖どうしの結合(インサイテューハイブリダイゼイション[in situ hybridization]; 略して「ISH」いっしゅ)を使うと、ある特定のタンパクやDNA・RNAだけを染めることができる。この方法は、分子レベルでの生物学研究では大変有効な方法で、盛んに用いられている(特に、下の蛍光顕微鏡と組み合わせることが多い)。

色素として蛍光色素(光が当たると、当たった光と違う色の光(蛍光)を発する特性がある物質。蛍光色素を含んだ塗料が蛍光塗料)、最初に当てる光(投射光)にはエネルギーが大きい紫外線を使い、フィルターで蛍光だけがみえるようにすると、プレパラートの中で蛍光色素があるところだけが輝いて見える。紫外線を投射する装置とフィルターを備えた顕微鏡を「蛍光顕微鏡」という。

透過電子顕微鏡の場合、切片が非常に薄いので、色素染色はほとんど意味が無く、屈折率の差も非常に小さい。ウランや鉛のような原子量の大きい金属原子(電子線を吸収する)を組織と結びつけて染色する。


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