0-2. 陸上植物を構成するグループ
0-2-1. 陸上植物
樹形図

地球上の生物は、およそ40億年前に生きていたと推定されるたった一つの祖先から、時間の流れの上に遺伝情報の樹(系統樹)を作りつつ進化してきたと言われる。

生物進化の歴史の中でも、陸上植物の出現は、飛び抜けて大きなできごとの1つだ。生命の起源からの長い期間、生物の進化の主な場は海洋だった。水中(おそらく淡水中)で光合成をしていた生物群の一部が陸上に進出したのは4~5億年前とされる。その子孫は、陸上を主な舞台として進化を続けて多数のグループに分かれ、現在では陸上植物[land plants]と総称されている。陸上植物の出現によって陸上は緑に覆われ、陸上植物の光合成をベースとした陸上生態系[terrestrial ecosystem]が成立した。

陸上植物には、再び水中に進出したグループ(水生植物)もある。
地質年代表(単位MYA British Geological Survey: Geological Timechartによる)
冥王代 始生代 原生代 顕生代
4600 4000 2500 541
顕生代
古生代 中生代 新生代
カンブリア紀(Cm) オルドビス紀(O) シルル紀(S) デボン紀(D) 石炭紀(C) 二畳紀(P) 三畳紀(Tr) ジュラ紀(J) 白亜紀(K) 古第三紀(Pg) 新三+四
541 485 444 419 359 299 251 201 145 66 23
上陸維管束種子
コケ植物
シダ植物
裸子植物
被子植物
陸上進出・維管束の出現・種子の出現と各植物群の盛衰の大まかな順序を横棒で示す(かなりの部分は主観的な評価に基づく)。

陸上植物の祖先は、淡水中で光合成をしているシャジクモや接合藻(アオミドロ・ツヅミモなどを含むグループ)に近い生物群に属していたと推定される。

シャジクモ
シャジクモ
シャジクモシャジクモは軸の途中の関節状のところに有性生殖器官を持つ。苞に囲まれてねじれた外殻を持つのが雌性生殖器官(生卵器)で、卵細胞が1個入っている。生卵器の下方につく球状の雄性生殖器官(造精器)では多数の精子が作られ、放出される。受精は生卵器内で起こる。

アオミドロの1種アオミドロの1種
アオミドロの1種アオミドロの1種
コウガイチリモコウガイチリモ上: アオミドロの1種
左: コウガイチリモの1種

カンブリア紀の動物群の爆発的な多様化によって、水界(海洋・河川・湖沼)では現在のかたちに近い生態系が成り立っていた。しかし、海洋の大部分を占める外洋では、光の当たる表層では養分が不足、養分が溜まる深層では光が不足する。大陸に近い浅海や河川、浅い湖沼にはその両方があるが、面積は限られている。

それに引き換え陸上では、養分を含む土壌に十分な光が降り注ぐ。光合成をする生物にとっては、外洋にない好条件で、しかも、浅海・河川・湖沼とは比べものにならないほど広大だ。

陸上には、生物にとって水界にない悪条件もあった。

  1. 強い紫外線
  2. 乾燥
  3. 寒暖の差

初期の陸上植物はいくつかの特徴によってこれらの困難をしのいだ。

陸上植物は多数のグループに分岐し、その中には、水から離れた生活に適したさまざまな特徴を獲得し、より複雑で大型の身体を作るようになったものが出現した。

これらの過程を通じて、陸上植物は他の陸生生物とさまざまな相利関係を結び、陸上生態系はより立体的で多様性の高いものに変化していった。

陸上植物と藻類―光合成をする真核生物
3ドメイン

生物系統樹は3つの大グループ(3ドメイン [3 domains])に枝分かれし、各グループがさらに無数のグループに枝分かれする。

  1. バクテリア(細菌) Bacteria
  2. アーキア (古細菌) Archaea
  3. 真核生物 Eukarya

真核生物の核遺伝子はアーキアとの共通性が高いがバクテリアと共通する部分もある。ミトコンドリア(実質的に全ての真核生物細胞が持つ)の遺伝子はリケッチア目と、葉緑体(一部の真核生物細胞が持つ)の遺伝子はシアノバクテリアとの共通性が高い。これらのことから、

  1. バクテリアとアーキアが分岐
  2. アーキアと真核生物の祖先が分岐し(狭義の3ドメイン説; 図の3)
       または
    アーキア内の系統の1つが真核生物の祖先となり(エオサイト説[Eocyte hypothesis]; 図のE)
  3. 核の進化・リケッチア目の細胞内共生(図のS)によるミトコンドリアの獲得
    などによって単細胞真核生物が起源
  4. 単細胞真核生物の1系統がシアノバクテリアの細胞内共生(図のS)によって葉緑体を獲得(単細胞光合成真核生物の起源)
  5. 真核生物の複数の系統で多細胞体制が進化

という順序が推定されている。

細胞内共生
宿主細胞内共生体栄養獲得能力
マメ科の根根粒菌
(バクテリア)
空中窒素固定
ハンノキ科
などの根
フランキア
(バクテリア)
造礁サンゴ
クラゲ
イソギンチャク
二枚貝
褐虫藻
(渦鞭毛藻)
光合成
繊毛虫
カイメン
ヒドラ
イソギンチャク
二枚貝
クロレラ
(トレボキシア藻)
ミドリゾウリムシ左―ミドリゾウリムシ(繊毛虫類)にはクロレラが内部共生している

下―造礁サンゴは、触手で動物プランクトンを捕食するとともに細胞内共生している褐虫藻(渦鞭毛藻)から養分を得る

コユビミドリイシコユビミドリイシ

現生の光合成真核生物のほぼ全ては、たった1回のシアノバクテリアの細胞内共生によって起源した。

ケルコゾアに属する単細胞真核生物Paulinella chromatophoraは、葉緑体を持ち光合成をするが、2005年以降の一連の研究によって、他の生物の葉緑体とは独立にずっと新しく起源したことが明らかになった(Marin B, Nowack EC, Melkonian M. 2005. A plastid in the making: evidence for a second primary endosymbiosis. Protist 156:425-432 など)。 P. chromatophoraのような例が今後他に見つかる可能性もあり、また、過去に存在したが現在まで存続できなかった例があったかも知れない。
藻類

光合成をする真核生物=葉緑体を持つ真核生物のうち、陸上植物以外を総称して藻類[algae]という。藻類は単細胞・細胞群体・多細胞のものがあり、水中を主な舞台として進化し、現在も水中を主な生活の場としている(地表や樹上などで生活する陸生藻類もある)。

葉緑体のもとになったシアノバクテリアは、藻類に含めて「藍藻」と呼ぶこともある。

陸上植物と陸上植物に近縁な藻類をまとめて「緑色植物」[Viridiplantae]という。 下のように分類される(主なもののみ)。

単に「緑藻」というとき、上の表の「緑藻植物」を指す場合、「緑藻」を指す場合、「陸上植物以外の緑色植物」を指す場合がある。
フクロフノリ
フクロフノリ(紅藻)

緑色植物以外の藻類には、さまざまなものが含まれる。そのうち、紅藻(アサクサノリ・テングサなど)・灰色(かいしょく)藻などは緑色植物と共通の祖先から進化した。

褐藻(コンブ・ワカメなど)・珪藻・渦鞭毛藻などは、系統樹上で緑色植物と大きく離れていて、葉緑体を持たない単細胞生物に近い。例えば、褐藻や珪藻は卵菌(ミズカビ・べと病菌・白サビ病菌・ジャガイモ疫病菌など)と、渦鞭毛藻は繊毛虫(ゾウリムシなど)やマラリア原虫、ミドリムシ(ユーグレナ)類はトリパノソーマ(病原体の1つ)と同じグループに属する。

ホンダワラ類 スジタルケイソウ
ツノオビムシの1種
ミドリムシ
左―ホンダワラ類の1種(褐藻)・右上―スジタルケイソウの1種(珪藻)・右中―ツノオビムシの1種(渦鞭毛藻)・右下―ミドリムシ(ユーグレナ)の1種

このことは、次のように説明されている。

  1. シアノバクテリア(図の1)の細胞内共生による葉緑体の獲得(一次共生)は(Paulinella chromatophoraを除いて)単一起源で、その子孫は緑色植物・紅藻・灰色藻などに分かれた
  2. 葉緑体を持つ真核単細胞生物の細胞内共生による葉緑体の獲得(二次共生)がさまざまなグループで複数回起こった
  3. いったん獲得した葉緑体の消失もさまざまなグループで複数回起こった
葉緑体葉緑体獲得の模式図。
1―シアノバクテリア
A―一次共生
2・3―一次共生由来の葉緑体を持つ生物群
B―二次共生
4―二次共生由来の葉緑体を持つ生物群
5―系統的に4に近い葉緑体を持たない生物群

植物の定義

「植物」が指す範囲は歴史的に変化してきており、現在も統一された定義はない。

かつては、菌類やバクテリアなど、運動能力がない(あるいは低い)あらゆる生物も含まれていた。後に、菌類・バクテリアが独立し、光合成能力を中心に植物が定義されるようになった。

光合成能力が複数回起源したことが分かると、単一起源を持つグループとして植物を定義することはできないことがはっきりした。

現在では、植物が含む範囲は場合により人により違う。系統関係を重視して定義することが増えており、陸上植物+陸上植物と同じ枝に属する生物群を植物とする場合や、高校生物のように植物=陸上植物とする場合もある。しかし、植物=光合成真核生物とする伝統的な定義(この場合、植物は陸上植物と藻類の総称となる)も日常生活ではしばしば使われている。

0-2-2. コケ植物・シダ植物・裸子植物・被子植物

現在まで生き残り、繁栄している陸上植物(現生の陸上植物)は、系統樹上では7つの枝(クレード[clade]; 単系統群[monophyletic group])に分けられ、日常的にはそれらが4つのグループにまとめられている。

ゼニゴケ ホシダ
クロマツ ヤマザクラ
ゼニゴケ(コケ植物)・ホシダ(シダ植物)・クロマツ(裸子植物)・ヤマエンゴサク(被子植物)

現生陸上植物の比較
維管束配偶体配偶体と
胞子体の
関係
受精雌しべ受粉散布体
雌性雄性
コケ植物
(仮根)
葉状体
茎葉体
(2)精子胞子
維管束
植物
シダ植物篩管
仮導管

(1)
前葉体  胞 (3)
種子
植物
裸子
植物
造卵器
+胚乳
花粉粒 (4)送受粉

花粉管
(5)
受粉滴種子
被子
植物
篩管
仮導管
導管
胚嚢柱頭
(6)
各群の特徴として挙げられているものには、少数の例外を含むものがある
陸上植物は配偶体・胞子体の2タイプの多細胞体があり、胞子体は細胞あたりのDNAが配偶体の2倍。生長と有性生殖の過程で配偶体➜受精➜胞子体➜減数分裂➜配偶体のサイクルを繰り返している(右図)。
(1) シダ植物マツバラン類は仮根のみ
(2) 胞子体は受精した(雌性)配偶体上にできる
(3) 配偶体・胞子体とも独立生活: 配偶体は単純な体制で小型
(4) 配偶体は微小で胞子体の中に埋め込まれる
(5) 裸子植物のイチョウとソテツ類では、短い花粉管から放出された精子が泳いで卵に達する
(6) 柱頭で発芽した花粉管は雌しべの組織を通り抜けて卵に達する
世代交代

上で挙げたのはわりと目に止まりやすい違いだが、他にも多数の区別点がある。また、コケ植物・シダ植物・裸子植物はさらに複数のグループに細分することができ、グループ間の違いが結構大きい。

系統関係を表わすためには、コケ植物は少なくとも3つ、シダ植物は少なくとも2つに分ける必要がある。

遺伝子から推定された現生陸上植物の系統関係
タイ類コケ植物
セン類
ツノゴケ類
ヒカゲノカズラ類シダ植物維管束植物
シダ類
裸子植物種子植物
被子植物

左端の4分岐(タイ類・セン類・ツノゴケ・維管束植物)は、図の通り一気に4つの系統に分岐したことを示すのではなく、分岐の順序が未確定である[unresolved]ことによる。論文によって分岐順序の推定の結果が食い違っており、下は一例で、タイ類、セン類の順に分岐し、最後にツノゴケと維管束植物が分岐している。

タイ類コケ植物
セン類
ツノゴケ類
ヒカゲノカズラ類シダ植物維管束植物
シダ類
裸子植物種子植物
被子植物
分岐順序や分岐年代の推定については、TimeTree: The Timescale of Lifeでまとまった情報が参照できる。

現在は生きていないが化石で見つかっている植物の中には、シダとコケの中間のようなもの、シダと裸子植物の中間のようなものなど、さまざまなグループがある。

系統樹と比較生物学

複数の生物群の間で形質(特徴)に違いが見られるとき、形質行列[character matrix](生物群×形質の表)と系統樹を重ね合わせることによって、次のようなことが推定できる。

上で出てきた系統樹と形質行列をともに簡略化し、左に系統樹、右に形質行列と並べると、下のようになる。

系統樹 グループ 形質行列
維管束 受精 散布体
コケ植物 なし なし 精子 胞子
シダ植物 あり あり
裸子植物 送受粉
花粉管
種子
被子植物

維管束・根がある各グループから系統樹を遡ると、矢印が指す1点に集まる。このことから、以下のことが推定される。

  1. 維管束・根はこれらのグループが分岐する過程で新たに出現した特徴(派生形質)
  2. シダ・裸子・被子の共通祖先で出現して各グループに引き継がれた
系統樹 グループ 形質行列
維管束 受精 散布体
コケ植物 なし なし 精子 胞子
シダ植物 あり あり
1➚
裸子植物 送受粉
花粉管
種子
被子植物

同じように、種子・花粉管を持つ各グループから系統樹を遡ることで、新しい受精様式と散布体が裸子・被子の共通祖先で出現したことが推定される。

系統樹 グループ 形質行列
維管束 受精 散布体
コケ植物 なし なし 精子 胞子
シダ植物 あり あり
裸子植物 送受粉
花粉管
種子
2➚被子植物

両方を1つの系統樹に盛り込むと、下図のようになる。

系統樹 グループ 形質行列
維管束 受精 散布体
コケ植物 なし なし 精子 胞子
シダ植物 あり あり
1➚
裸子植物 送受粉
花粉管
種子
2➚被子植物

1➚は維管束・根の進化、2➚は種子・花粉管の進化を示す。★☆は、遺伝子の大規模な分析から推定された「全ゲノム重複」[whole-genome duplication; WGD]で、裸子植物と被子植物の分岐の直前に1回(★)、被子植物の共通祖先で1回(☆)起こった。

全ゲノム重複は、核のゲノム全体が二重になる(従って、全ての遺伝子が二重になる)現象で、染色体レベルでは(染色体数が倍になるので)「倍数化」[polyploidization]と呼ぶ。生物のさまざまなグループで、遺伝子の機能の多様化を通じて形質進化の駆動力になったと考えられている。被子植物は、共通祖先の段階で2回の全ゲノム重複を経た。共通祖先から分岐した多数のグループでも全ゲノム重複が高頻度で起こり続けている。

同じ形質が系統樹の複数の場所で進化したり(平行進化[pararellism])や祖先が獲得した形質が消失したり(進化の逆行[reversal])などが起こると、推定は上の例よりも複雑になり、確定しない場合もある。

形質行列のためのデータ集めから始まり、このような分析やさらに発展したさまざまな分析を行う研究分野を比較生物学[comparative biology]という。形態的な形質の場合は比較形態学、生態的な形質の場合は比較生態学のように細分されることもある。また、形質の代わりに地理的な分布をとって同様の分析を行う研究分野を系統生物地理学といい、広い意味での比較生物学に含まれる。

系統樹の精度に応じて推定の精度が変わる。信頼できる系統樹がない段階ではグループ間の比較(例えば、系統関係が近いと推定される科どうしの比較)で代用することもあるが、精度はずっと低くなる。
0-2-3. コケ植物

陸上植物の進化の初期に分岐したグループのうち、現在まで続いているのは4つで、そのうち維管束植物(後述)を除く3つを総称して「コケ植物」(コケ)と呼ぶ。

コケ植物の植物体は、細胞ごとにゲノム1組がある配偶体[gametophyte]で、形状からは次の2つのタイプがある。どちらも少数の細胞層でできており、根は持たず、仮根という細長い細胞の集まりで植物体を固定している。

  1. 茎葉体: 軸状の茎に平面的な葉がつく
  2. 葉状体[thallus 複数形 thalli]: 全体が平面的で、端が二叉に分かれながら伸長する

コケ植物に含まれる3つのグループは、それぞれ、タイ類・蘚類・ツノゴケ類と呼ばれる。

  1. タイ類 (苔類)[liverwort]: ゼニゴケなど。茎葉体を持つものと葉状体を持つものとがある。
  2. セン類 (蘚類)[moss]: スギゴケなど。植物体は茎葉体
  3. ツノゴケ類[hornwort]: 葉状体
葉状体を持つタイ類
マキノゴケマキノゴケ(コケ植物・タイ類)の葉状体と胞子体

トサノゼニゴケ トサノゼニゴケ
トサノゼニゴケトサノゼニゴケ(コケ植物・タイ類)の葉状体裏と仮根
茎葉体を持つタイ類
オオウロコゴケ オオウロコゴケ
オオウロコゴケ(コケ植物・タイ類)の茎葉体
セン類
スギゴケの1種
スギゴケの1種(コケ植物・セン類)の茎葉体

ハリガネゴケの1種ハリガネゴケの1種 ハリガネゴケの1種
ハリガネゴケの1種(コケ植物・セン類)の茎葉体と胞子体

セン類の1種タチヒダゴケ(コケ植物・セン類)の茎葉体と仮根
ツノゴケ
ミヤベツノゴケ
ミヤベツノゴケ
ミヤベツノゴケ
ミヤベツノゴケ(コケ植物・ツノゴケ類)の葉状体と胞子体
オオウロコゴケ ハリガネゴケ
ミヤベツノゴケ コケ植物の組織。左上―オオウロコゴケ(タイ類)の葉、上―ハリガネゴケの1種(セン類)の葉、左―ミヤベツノゴケの葉状体。細胞層が少なく葉緑体が大きいコケ植物は細胞の観察に適している。

コケ植物は生活に必要な水分の吸収とガス交換を体表全体でするため、植物体の姿と生育環境に次のような制約がある。

タチヒダゴケタチヒダゴケ
乾燥時のタチヒダゴケ(セン類)と霧吹きで湿らせて30分後のようす

だから、コケ植物の身体は地表や岩の表面、木の幹などを低く(多くの場合は平面的に)覆うようなかたちとなる。乾燥すると細胞が縮んで耐え、雨や霧が掛かると水分を吸収して速やかに復活する種も多い。これらの点で、コケ植物は、地衣[lichen](菌類と単細胞藻類(緑藻かシアノバクテリア)の共生体)や、単細胞生物の群体が形成するマットと似ている。

ナミガタウメノキゴケ
ナミガタウメノキゴケ(地衣)

イシクラゲ
地表性のシアノバクテリア・イシクラゲ

地表を平面的に広がる葉状体や茎葉体=配偶体に対して、胞子体は配偶体から上へと突き出して(ゼニゴケ類は、この点でも例外的だ)胞子が広い範囲に飛散することを可能にしていた。胞子体は胞子を散布するためだけに作られる短命な構造だったが、後述するように維管束植物に見られる特徴のいくつかをすでに備えていた。

0-2-4. 維管束植物の出現

コケ植物の3つのグループと異なり、維管束植物(=シダ植物・裸子植物・被子植物)の共通祖先では、以下のような特徴が進化した。

  1. 配偶体より圧倒的に大きい胞子体が発達し、胞子体の各器官では細胞がコケよりずっと立体的に配置される。コケでは配偶体が大きく、胞子体は配偶体上にできる
  2. 根・クチクラ・気孔・維管束の組み合わせによる吸水・ガス交換・蒸散・導水のシステム
    1. 根が地中に伸びて、植物体を固定するとともに表面から養分を含む水溶液を吸収する
    2. 葉や茎の表面はクチクラに覆われ、開閉する気孔がある。気孔は、組織内のすきま(細胞間隙)を通じて各細胞につながっている。各細胞のガス交換と蒸散は、細胞間隙と気孔を介して起こる
    3. 水溶液が移動する経路=維管束(仮道管・導管・篩管)がある。維管束は、連続した管による効率的な通水機能を持つとともに、リグニンの裏打ちによって補強され、植物体を支持する骨組みとしても機能する。
カボチャ導管カボチャ(ウリ科)の導管

ノビル
ノビル(ユリ科|ヒガンバナ科)の維管束の横断面

コムギ
ダイコン上: コムギ(イネ科)の根の縦断面
左: ダイコン(アブラナ科)の発芽直後に伸びた幼根


ハマヒサカキハマヒサカキ(ツバキ科|ペンタフィラクス科)の葉の断面(表皮付近)。表皮の上面をクチクラ(純白に見える層)が覆っている。
ホシダホシダ(シダ植物)の葉下面(スンプ像)

ホシダホシダ
ホシダ(シダ植物)の茎と葉の横断面。茎の断面では、2~数個の不定形の維管束断面がリング状に並ぶ

維管束・根・気孔・クチクラ
維管束植物(左)とコケ植物(右)の吸水(1)・蒸発/蒸散(2)・ガス交換(3)・水輸送(4)の模式図
ガス交換
蒸発/蒸散
吸水固定水輸送支持
コケ植物体表全体仮根なし/通水細胞なし
維管束植物気孔維管束

透水性・通気性が低いクチクラに覆われた体表では、ガス交換と蒸散(水の蒸発)はもっぱら気孔で行なわれる。体表でのガス交換と異なり、気孔の分布や孔辺細胞の変形による開閉によってガス交換の場所やタイミング、量が調節される。

生命活動や蒸散に必要な水は、土壌から吸収されて導管を通って根から茎、さらには葉へ移動する。蒸散は、導管/仮導管を水が上昇する原動力となる。

根は土壌中の広い範囲から水分と養分を集めることができる。また、根は特定の菌類の生育の場となり(菌根)、そのことによって養分の吸収力を高めている。

維管束植物では吸水とガス交換の場所が分離され、吸水はもっぱら根、ガス交換はもっぱら気孔で行われている。気孔と根、そして両者をつなぐ維管束という組み合わせは、コケよりはるかに大きく高い植物体を可能にした。

ブナブナ(ブナ科)の樹形(早春)

現在の地球上では、いたるところで裸子植物・被子植物の巨樹を見ることができる。

恒水性・変水性と「乾燥への強さ」

植物体内の水分条件は、外界の水分条件の変動と連動する。連動の度合いが小さいことを「水分条件の恒常性」または「恒水性」[homoiohydry; homeohydry]という。反対に、外界の水分条件の変動に強く連動することを「変水性」[poikilohydry]という。

維管束植物はコケ植物より高度な恒水性を備えており、外界の乾燥に対して植物体の乾燥を防ぐことで陸上生活に適応している。しかし、いったん乾燥すると致命的なダメージを受ける(シダ植物や被子植物では、少数だが変水性をもつ種が知られている)。コケ植物や陸生藻類は変水性の傾向が強く、外界が乾燥すると植物体も乾燥するが、多くの種が乾燥に対する耐性[Desiccation tolerance]をもっている(Proctor & al. 2007)。

「乾燥を防ぐ」「乾燥に耐える」のどちらが「乾燥に強い」かは条件次第だ。根を張るすきまがない壁面など、維管束植物が生えることができずコケと地衣だけしか見つからない環境も多い。

コケ植物に見られる気孔・クチクラ・維管束の前駆的な構造

クチクラはコケ植物の配偶体・胞子体に広く見られるが、水の蒸発を防ぐほど厚くないことが多い。セン類・ツノゴケの胞子体は比較的発達したクチクラと気孔を持ち、機能ははっきりと分かっていないが、維管束植物のクチクラ・気孔と共通の起源を持つと推定され(Ligrone & al. 2012)、気孔の発生過程・制御遺伝子は、セン類・ツノゴケ・維管束植物を通じて共通性が高い(Qu & al. 2017)。

茎葉体を持つコケ植物では、茎の中心や葉の中肋に細長い細胞があり、単純な通水機能を持つ。特に、セン類の一部(内水性セン類 [Endohydric mosses])の茎はクチクラで覆われ、発達した通水細胞群が中心部を貫通しており、水は主に茎の芯を通じて植物体に行きわたる。

0-2-5. 陸上生態系の多様化

維管束の進化によって、樹木という生活型、さらに森林という生態系が出現することになった。古生代デボン紀には、湿潤なところでは森林、乾燥したところでは草原など、さまざまな生態系が成立して、陸上植物は、他のさまざまな生物群と生態的な関係でつながっていた。

陸上植物と他の生物との間の最も普遍的な関係は、(広い意味での)「食べる―食べられる」関係だ。陸上における光合成生産の主役として、おびただしい量の植食者[herbivore]や植物病原体[plant pathogen]または植物寄生者[plant parasite]の生活を支える一方、廃棄器官(落葉など)や枯死した植物体を(広い意味で)食べて生活する分解者[decomposer]も大量に存在する。

生きた植物を(狭い意味で)食べる生物を植食者、内部から栄養を吸収する生物を植物病原体/植物寄生者というが、境界ははっきりしない。また、それらと分解者との境界もあいまいになることがある。

植食[herbivory]の痕跡を残す化石はシルル紀末から出現してデボン紀に増加し、石炭紀の中盤には多様な節足動物、特に昆虫によるさまざまな植食のパターンが見られるようになった。

Labandeira CC 2007. The origin of herbivory on land: Initial patterns of plant tissue consumption by arthropods. Insect Science 14: 259-275 DOI: 10.1111/j.1744-7917.2007.00141.x-i1

菌類・ササラダニ・トビムシなど土壌中の分解者の多くはデボン紀には化石が知られており、植物と分解者の関係はすでに現在とかなり似たものになっていたと考えられる。

分解者との関係が植物にとって(少なくとも直接的には)利益も損害もない(中立)のに対して、植食者・植物病原体との関係は植物に大きな損害(食害・病害)を与える。そのため、植物の方では、トゲや忌避物質、植物毒などのさまざまな防御・回避のしくみが進化し、それに対して植食者・植物病原体の方では解毒能力などの対抗手段が進化した。草食哺乳類のような新しい植食者・植物病原体の出現は、植物側に新たな防御・回避手段の進化を促した。

植食者が植物の進化を促し、植物の進化が植食者の進化を促すというように、複数の生物群が利害関係を通じてからみあいながら多様化することを共進化[coevolution]という。

デボン紀の陸上植物は、敵対的な「食べる―食べられる」関係、中立的な分解者との関係、そして、相利的な菌根(前述)と共生窒素固定を通じて、おびただしい量の他の生物の生存を支え、現在にいたるまで陸上生態系の基盤となりつづけている。

共生窒素固定: 根粒菌・Frankia属(放線菌)・アナベナ(シアノバクテリア)・ネンジュモ(シアノバクテリア)など、バクテリアの中には大気中の分子窒素(N2)を植物が利用できるアンモニアに変換する能力を持つものがある。これらのバクテリアが陸上植物の体内に住み、アンモニアを植物に供給することを共生窒素固定といい、コケ・シダ・裸子・被子のそれぞれで一部の種に見られ、土壌の窒素分が不足する環境で優位をもたらすと考えられている。
0-2-6. シダ植物

最も早く、古生代石炭期を中心とした古生代の後半に森林を形成したのは、現在のシダ植物の祖先にあたる植物たちだ。

現生のシダ植物は、2つのグループから構成されている。

  1. ヒカゲノカズラ類(ヒカゲノカズラ・トウゲシバ・クラマゴケの仲間)
  2. シダ類

系統的には、ヒカゲノカズラ類が分岐した後で、シダ類と種子植物が分岐した。ヒカゲノカズラ類の葉は他とは違う単純な構造を持ち、「ミクロフィル」[microphyll](phyll=葉)と呼ばれている。

マンネンスギ 左: ヒカゲノカズラ類のマンネンスギ

下: コンテリクラマゴケ
コンテリクラマゴケ

シダ類からは多数の系統がさらに分岐したが、その中で、マツバラン類(根を持たない/明瞭な葉がない)、トクサ類(スギナ・トクサなど。直立した茎を輪状に取り巻いて小さな三角形の葉がつく)は、飛び抜けて変わったかたちをしており、それ以外のシダ類(狭義のシダ類)と独立の系統と考えられていたこともあった。

遺伝子から推定されたシダ類の系統関係
マツバラン
ハナヤスリなどシダ類(狭義)
リュウビンタイなど
スギナ・トクサなど
ゼンマイなどシダ類(狭義)
薄嚢シダ
マツバランスギナ(ツクシ)左: マツバラン
右: ツクシとスギナ。スギナが春先に出す生殖用の茎を「ツクシ」という。

古生代石炭紀・ペルム紀の湿地では、ヒカゲノカズラ類のリンボク[Lepidodendron]・フウインボク[Sigillaria]やトクサ類のロボク[Calamites]などの巨木が「石炭の森」[coal forest]と呼ばれる森林を作っており、枯死後は低酸素条件下で石炭化した。
ホシダ
ヒカゲヘゴ上: ホシダ
左: ヒカゲヘゴ

現在のシダ植物は、地下茎から葉だけを地上に広げる低い植物が多い。熱帯・亜熱帯地域ではヤシのような姿の木性シダ(ヘゴ類)が見られる。

0-2-7. 散布体の進化―胞子から種子

単細胞生物は風や水に流されるだけではなく、鞭毛[flagellum]を動かすこと(鞭毛運動)や細胞自身が収縮すること(アメーバ運動)によって移動する。多細胞生物の一歩手前である群体までは、単細胞生物と同じような方法を使っている(ボルボックス―鞭毛運動、粘菌―アメーバ運動)。しかし、多細胞生物になると、細胞一つ一つの運動では生物体全体の運動につながらなくなる。多細胞動物では、神経系と筋肉を発達させることで多数の細胞の動きを集中的にコントロールし、すばやい移動を可能にした。

多細胞の藻類は、同じ方法をとらず(あるいは、とることができず)、多細胞体の一部を水底などに固定することで固着生活を送るようになった。そのかわり、有性生殖のため単細胞(卵・精子・受精卵・胞子)になるときに水流に乗って、または鞭毛運動で移動する。

陸上植物では、丈夫な殻で覆われた胞子[spore]を空中に飛散させ(胞子散布)、水の力を借りずに長距離の移動をする。

マキノゴケマキノゴケ
マキノゴケ(コケ植物・タイ類)の胞子の散布。胞子は「弾糸」とよばれる糸状の構造と混じっていて、弾糸が伸びるとともに胞子が溢れだす。

トサノゼニゴケトサノゼニゴケ(コケ植物・タイ類)の胞子体とその裂開、胞子と弾糸
トサノゼニゴケトサノゼニゴケ

ヤブソテツヤブソテツ(シダ植物)の胞子嚢群の断面

シダ植物では葉の裏や縁に胞子嚢群(ソーラス)がつく。胞子嚢群は、粒状の胞子嚢の集まりで、若いうちは膜(包膜)に覆われていることが多い。熟すると包膜が縮んで胞子嚢が露出する。

ホシダホシダの葉の裏に並んだ丸い胞子嚢群
ホシダホシダの胞子嚢は柄がついたレンズ形で周囲の3/4くらいが縞目のついた環帯に縁取られている。乾燥すると、環帯の収縮運動で胞子を弾き出す。

(動画)

ホシダ
ホシダの胞子嚢群・胞子嚢・胞子のSEM(走査型電子顕微鏡)像。白線は、それぞれ、1mm・100μm・50μm。
ホシダホシダ
カキノキカキノキ カキノキ(カキノキ科)の種子と縦断面。双葉を持った胚は、茶色の種皮・半透明の胚乳に囲まれている。

種子植物では、受精卵が親個体から養分の供給を受けて細胞分裂し、幼い胞子体=胚となってから親から離れて移動するようになった。

種子植物は雄性の小胞子と雌性の大胞子を作る。小胞子はコケ植物・シダ植物の胞子と同様に殻に覆われ、花粉となって親個体から離れる(送粉)。大胞子は親個体上に留まるため、胞子だけで分布を広げることはできない。

種子は胞子より大きくて重いので、移動距離のみを考えると種子散布は胞子散布より不利だ。反面、発生がかなり進んだ状態で移動するので、移動後の発芽・成長ではずっと有利なスタートを切ることができる。また、さまざまな方法で風や動物を使って散布距離を稼ぎ、不利を埋め合わせている。

種子をつける植物(種子植物)はデボン紀に出現し、多数の系統に分岐したが、現在まで残ったのは2つだけだった。1つは被子植物、もう1つは現生の裸子植物の祖先となる系統だ。

0-2-8. 精子受精から送受粉+花粉管受精へ

シダ・コケは、鞭毛を持つ精細胞(精子)が雨や地表水の中を移動して受精する(精子受精)。裸子植物・被子植物の共通祖先で、受精は次の2段階で行われるようになった。

  1. 送受粉: 精細胞を含む花粉(雄性配偶体)が風や動物などによって胚珠の近くに運ばれる
  2. 花粉管受精: 花粉から伸びだした花粉管が精細胞を卵のそばまで運んで受精する

送受粉と花粉管受精の組み合わせによって受精は外部の水に依存しなくなった。また、精細胞の移動距離が格段に長くなって、胞子と比較して短い種子の散布距離を、(胞子と違って)散布先に同種の生殖個体がいるという限定つきではあるが、埋め合わせた。


トサノゼニゴケ(コケ植物・タイ類)の精子と造卵器(動画)

ホウセンカホウセンカの送受粉と花粉管伸長。ハチが花に潜り込んで吸蜜する(左上)と背中に花粉がつく(右上)。他の花に潜り込んで吸蜜するときに背中の花粉が柱頭につく(左下)。柱頭で花粉管は発芽・伸長して(右下)精細胞を卵細胞のところへ運ぶ。

裸子植物の多くでは、花粉は胚珠の先端から分泌された小さな水滴(受粉滴[pollination drop])に付着し、やがて受粉滴とともに胚珠内に吸い込まれてから花粉管が伸びて先端が卵細胞に達する。また、被子植物では雌しべの一部が凹凸や分泌液に富んだ花粉付着面(柱頭)になっている。花粉は柱頭の表面で花粉管を伸ばし、花粉管は雌しべに入り込む。

イチョウイチョウ(裸子植物)の胚珠の先端から受粉滴が分泌されている。

ネズミモチ
ネズミモチ(モクセイ科)の柱頭。花粉粒には3つのスリット(発芽口)があり、スリットから伸び出した花粉管が柱頭の組織に入っていく。

アケビアケビ
アケビ(アケビ科)の胚珠と花粉管。花粉管の先端は、2枚の種皮に包まれた珠心に入り込む。

脊椎動物の受精でも同じような関係があり、受精が水中で行われる魚類に対し、体内受精を行う爬虫類・鳥類・哺乳類は水に束縛されない生活をしている(両生類には体外受精を行うものと体内受精を行うものとがある)。

裸子植物のイチョウとソテツは精子受精と花粉管受精を併用する例外的な植物で、短い花粉管から放出された精子が卵細胞に達するが、精子が移動するための水分は胚珠から分泌される。

ソテツソテツの胚珠の先端部に入り込んだ花粉は花粉管を伸ばし(左)、精子(右)を放出する
0-2-8. 裸子植物
ソテツ イチョウ
クロマツ上左: ソテツ
上右: イチョウ
左: クロマツ
下: マオウ

マオウ

現生の裸子植物は、3つの系統に分かれる。

  1. ソテツ類
  2. イチョウ
  3. 球果類+グネツム類
遺伝子から推定された裸子植物の系統関係
ソテツ類
イチョウ
マツ科以外の球果類
マツ科
グネツム・マオウ・ウェルウェッチア

マツ・スギ・ヒノキなど針葉樹林を構成する樹木を含む球果類が最大のグループだ。球果(種子錐)とは、マツボックリのように種子とそれを守る鱗状の葉が集まってついた器官のことを指す。ただし、イヌマキやイチイのようにマツボックリ状にはならない球果類もある。

スギスギ
スギ(球果類)。枝先に密生する長楕円形の花粉錐(雄花ということもある)から春先に大量の花粉を散らす。花粉は胚珠錐(枝先に集まった小さい灰色がかったふくらみ。雌花ということもある)の中の胚珠につき、花粉管を伸ばして受精する。下の方の大きな緑色のクリのイガのような塊は去年受粉した二年目の種子錐(スギボックリ)。

グネツム類は、グネツム(ツル状で、被子植物の葉によく似た葉をつける)・マオウ(緑色の細い茎が密生)・ウェルウィッチア(2枚の帯状の葉が地を這うように伸び続ける)の3つのグループからなる。植物全体のかたちが他の裸子植物と大きく違うため、独立したグループとして扱うことが多いが、系統的には球果類に含まれる。

イチョウイヌマキ
左―イチョウの種子(ギンナン)、右―イヌマキの種子。イチョウでは種皮の外層が、イヌマキでは種子の基部が、目立つ色をしてみずみずしい可食部となる。

3つのグループのそれぞれで、動物による種子散布が見られる。花粉を風で運ぶ(風媒)種が多いが、ソテツ類とグネツム類では昆虫による花粉の移動(虫媒)が見られる。

0-2-9. 被子植物の多様化と共進化
アケボノソウ
アケボノソウ(リンドウ科)の花。茎の先に5枚の萼片、5枚の花弁、5本の雄しべ、1個の雌しべ(2枚の心皮)が規則的に配列している。花弁は複雑な模様に彩られ、2つの蜜腺がついている。

被子植物は、以下のような独特の特徴を持つ。

  1. [flower]=茎の先端に雌しべ・雄しべ・花被片(花びら・萼片など)が一定の配列で密集した有性生殖器官をつくる
  2. 種子のもとになる胚珠[ovule]は、雌しべに内蔵されている。花粉は雌しべの先端の特定の部分(柱頭)に付着し、花粉管は雌しべの組織を通って胚珠に到達する
  3. 精細胞と卵細胞が受精するときに、もう1個の精細胞(1個の花粉粒は、2個の精細胞を持つ)も卵細胞の奥にある中央細胞と受精する(重複受精)
  4. 受精した胚珠が種子に変化するのと並行して、雌しべは種子を包む果実[fruit]へと変化する
  5. 導管を持つ
なりたちは大きく違うが、裸子植物の有性生殖器官も、被子植物と同じように「花」と呼ぶことがある

これらの特徴は、被子植物を他のグループからはっきりと区別し、さらに、被子植物がたった一つの共通祖先から進化したグループ(単系統群[monophyletic group])である疑いない証拠とされてきた。一方、あまりに独自性が高いために、現生の裸子植物にも、他の化石種子植物にも結びつけるのが難しく、被子植物がどのような祖先型から起源したかは大きな謎となっている。

被子植物の現生のさまざまな種の系統関係や地理的分布の変遷は、DNAに基づく系統樹推定と植物化石研究の進展によって解明が進んでいる。被子植物は進化の初期に複数のグループに分岐したが、それらのうち、2つのグループが飛び抜けて繁栄し、種数でいうと被子植物の大多数を占めるようになった。

  1. 真正双子葉類: キク科・アブラナ科・バラ科・マメ科など
  2. 単子葉類: イネ科・ユリ科など

単子葉類の共通祖先では、単子葉性の胚・形成層のない維管束・平行脈を持つ葉などの一連の特徴が進化した(下図の➚)ため、単子葉類は、他の被子植物と形態的にはっきりと区別できるグループとなった。そのため、系統関係が明らかになるまでは、単子葉類以外の被子植物を双子葉類と呼び、被子植物を単子葉類と双子葉類の2つに大別していたが、現在では、真正双子葉類と単子葉類に加えて同じくらい古く分岐した5~6のグループに分ける。そして、真正双子葉類と単子葉類以外を便宜的にまとめて、

  1. 基部被子植物
と呼ぶ。

アムボレラ科







スイレン科など
シキミ科など
センリョウ科
モクレン科など
マツモ科
真正双子葉類
単子葉類
DNAから推定された現生被子植物の系統関係。
真正双子葉類が種の3/4以上を、単子葉類が2割以上を含む。

コケ・シダ・裸子植物の出現が3億年前以前にさかのぼるのに対して、被子植物の出現は飛び抜けて新しく、中生代白亜紀の1億3千万年前から1億年前にかけて急にさまざまな化石が現れ、中生代末~新生代初頭には裸子植物をしのぎ、地球上でもっとも繁栄している生物群の一つとなった。IUCN(国際自然保護連合)が2013年にまとめた統計によると、既知の生物種174万種のうち被子植物は約15%(約27万種)を占め、昆虫(約100万種・58%)に次ぐ。コケ植物・シダ植物・裸子植物を合わせても2万9千種で被子植物の1割に過ぎない。

ゲノムの解析からは、裸子植物の祖先と被子植物の祖先の分岐はデボン紀後半~石炭紀前半、被子植物の多様化はジュラ紀中盤に始まって白亜紀前半に急速に進んだと推定されている。その間の2億年あまりの進化の過程は、まだ十分に分かっていない。
既知の生物種数(左)と割合(右): IUCN(2013)による
脊椎動物無脊椎動物陸上植物
哺乳類55060.3%昆虫100000058%コケ
植物
162360.9%地衣170001.0%
100650.6%蛛形類1022485.9%シダ
植物
120000.7%真菌314961.8%
爬虫類98310.6%甲殻類470002.7%裸子
植物
10520.1%藻類他135090.8%
両棲類70440.4%軟体
動物
850004.9%被子
植物
26800015%
327001.9%710024.1%
小計651463.8%小計130525075%小計29728817%小計620053.6%
合計1729693
小進化の積み重ねで大進化を説明する現代の進化理論の基礎をつくったダーウィン(C. Darwin)にとって、被子植物の急速な多様化の過程は未解明の謎の1つだった。ダーウィンは、植物学者フッカー(J. D. Hooker)宛ての書簡で、被子植物が短期間に急速に多様化したことを"an abominable mystery"「忌まわしき謎」と呼んだ。このことにちなんで、アメリカ植物学会誌の2009年1月号は、『種の起源』("On The Origin of Species")の出版(1859)から150周年を記念する「忌まわしき謎」特集号として出版された。

このような急速な多様化の要因は完全に解明されたわけではないが、昆虫・鳥類・哺乳類との共進化が大きな原動力の1つとなったと考えられている。

共進化の遺伝子レベルでの基盤として、ゲノムの重複が多様化の直前に起こり、生殖器官の発生を制御する遺伝子の多様化を可能にした、という仮説がある。

という2つの相利関係は、裸子植物ではごく限られたグループにしか見られないが、被子植物ではふつうに見られる。

ススキススキ
ススキ(イネ科)の花と花粉を集める小型のハナバチ

風媒花でもしばしば花粉を食べたり集めたりする昆虫が観察される。訪花者[flower visitor]≠ポリネーター[pollinator]の例で、植物にとっては損害だ。ただし、風媒花―花粉食者の関係から動物媒花―ポリネーターの関係が起源したのではないか、という説がある。

生殖器官がコンパクトにまとまっていて、胚珠が保護されている被子植物の花では、進化の初期に、花食者(花粉食者を含む)から送粉者(ポリネーター)へ、風媒花から動物媒花への移行が起こった。「動物媒花と送粉者」という相利関係は、被子植物が動物(特に昆虫)の進化を促し、動物(特に昆虫)が被子植物の進化を促すことで、両者がからみあいながら多様化する共進化の出発点となった。

ヤツデヤツデ
蜜が露出するヤツデ(ウコギ科)の花は晩秋のハエにとって貴重な食糧源となる

ツツジ園芸種ツツジ園芸種(オオムラサキ)(ツツジ科)の花で吸蜜しているジャコウアゲハ

ゲンゲ・セイヨウミツバチ
ゲンゲ(レンゲソウ)(マメ科)の花を訪れるセイヨウミツバチ

同じように、果実食・種子食という敵対的な関係の一部は「動物に食べられることによる種子散布」という相利関係に移行した。花の特徴をひもとくのに送粉者の好みや振る舞いの解明が欠かせないように、動物に散布される果実の特徴も散布動物の好みや振る舞いで説明できる部分が大きい。


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