新車購入記〜四輪編〜

                       by 金光

  1. 前提

     昨年車を買い換えたのでその顛末について報告する。 私自身の車の好みは現在の日本の一般的な嗜好から外れているようなので、まず前提としてそれについて書いておく。

    かなり偏っているのがおわかりだろうか。 それではこれを前提に本文に入る。

  2. 発端

     それは 2002年3月のことであった。 当時の愛車コロナSFには何の不満もなかったし、上記のとおり5ドアハッチバックはスタイルとユーティリティ性の絶妙なバランスを可能にする車と思っていた(5人乗れればよい範囲では)。 しかし一番上の子供が中学生になるのが1年後に迫っていた。 小学生の間は子供3人で大人2人分という道交法の特別ルールによって、コロナでも大人・子供含めて合法的に6人乗車ができていたのだが、その言い訳ができなくなってしまう。 我が家は5人家族なので通常は関係ないのだが年に数回実家の親兄弟が遊びに来た時が困るのである。 乗車するからにはきちんとシートベルトをするべきで、その点上記の特別ルールはおかしいのだが、コロナの場合は後席中央が2点式ベルトだったこともあり、そこに下の子供2人を座らせて2人で1本のベルトをさせるという無理をしていたのである(決して褒められることではないのは承知の上だがやむ終えずということで)。 このような事情からそろそろ6人以上乗れる車を考えたらという話題が家庭内であがっていたのである。
     しかし、ここで大きな問題があった。 6人以上乗れる車というと当時すでに国内でブームとなっていたミニバンが候補になるのだが、当時も今も国内のミニバンにはATしか設定がないのである。 最近は奥さんがATしか運転できないのでやむなくATを選ぶ家庭もあるようだが、我が家のカミさんは幸い今までMTしか運転したことがなくMTの方がいいとおっしゃる。 私自身は上記のとおりMTしか眼中にない。 私にとってはATでは車を運転する楽しみが大きく減じられて、単なる運転手のように感じられてしまう。 だいたいATの割合が9割5分なんて国は日本くらいなもんで、ATの多いように思われてるアメリカですら8割くらいだそうであるし、ヨーロッパなんかは今でもデフォルトはMTである (次のグラフ参照。 グラフ中AT免許率は全免許保持者に対する割合なので新規取得者に限ると6割を超える)。 何で日本人はこんなにATばっかりに乗るんだ? AT免許なんてバカな制度を作ったせいか? おっと、思わず熱くなってしまったが、まあこのおかげで我が家では6人乗れる車は買えないなあって状態だった。 MT/AT比率推移

  3. 邂逅

     このような状況で目に留まったのが雑誌に試乗記事の載ったプジョー307SWである。 それまでに日本メーカーにも問い合わせをしたが色よい返事はもらえなかった。 例えばトヨタにイプサムのMTは売ってくれないのか、と聞いてみたが丁重に聞いてはくれたが可能性はないようであった。 英国トヨタのサイトには Avensis Verso (日本でのイプサムの英国仕様版)にちゃんとMTが設定されているのに、である。 そこで日本メーカーには見切りをつけ、外国メーカーも含めて情報収集を始め、特にMT比率の高いヨーロッパメーカーを調べていて上記の情報に行き当たったのである。 その当時はよく認識してなかったが、その後調べてみるとプジョーは例外的にMTモデルのラインアップが充実しているインポーターであった。 たいていのインポーターは日本では売れ線のATしか導入しないケースが多いがプジョーは日本メーカーよりもMT揃えがいいくらいである。 そしてプジョーの追加モデル 307SW7人乗車可のミニバン的要素を持ったワゴンであった。 前年秋に導入されていたベース車両の 307にMTが設定されていることを思えば、プジョーならこの 307SWにもMTを導入してくれるかもしれない。 しかし、さらに情報を集めていくと雑誌によっては「ATしか導入されない」とか「MTも後から導入される」とか錯綜し、確実なのは「最初に導入されるのはATだけらしい」ということだけであった。

    Peugeot307SW
  4. 訪問

     さらなる情報収集のためにディーラーであるブルーライオン福岡を訪問してみることにしたのは6月のはじめであった。 ブルーライオン福岡は福岡トヨペットの傘下であり、福岡トヨペット店にもプジョーのカタログが置いてあったので以前から気にはなっていたのである。 トヨペット店でも後々のサービスが受けられるなら国産車とあまり変わらない安心感が得られるかもという期待もあった。 後から知ったことだがプジョーのディーラーは地域によって経営が違い、もともと輸入車を扱っていたショップがやってるとこが多いようで、福岡のようにトヨペットのような大手がやってるのはめずらしいのかもしれない。 実際に訪問してみると店の雰囲気はトヨペット店そっくりで好感が持てた (きれいなネエチャンいやおねえさんが飲み物をサービスしてくれたり)。 この時点では 307SW はまだ日本導入前で営業マンと雑談をして「307SW が出たら検討したい」旨を伝えただけで特に試乗もせずに帰宅した。 8月のOB会でほのめかしたのはこういう状況だったのである。

    3列シートである
  5. 試乗

     8月末になってブルーライオンから案内状が届いた。 いよいよ 307SW の導入が決まったのである。 雑誌予想では秋ころとのことだったので予想より早い導入である。 案内状によればやはり事前の雑誌情報どおり当初はATモデルのみの導入であった。 予想外だったのは同じボディを共用する5人乗りのワゴン(フランス流にはブレークと呼ばれる)が同時導入され、そちらは1.6Lモデルも同時導入されることであった。 雑誌によってはブレークの導入は後で、1.6Lモデルの導入時にMTの可能性も、とあったので期待していたのだが、最初からブレークの1.6Lモデルが導入され、それがATのみだとMTの導入の目が少なくなってしまう。 不安材料である。 一方値段の方は事前の予想の300万を切る、という線をかなり下回り 307SWで276万というものであった(ブレークはもっと安い)。 こちらは好材料と言える。
     とりあえず現物を見なければ、ということで8月末の週末にブルーライオン福岡を訪れた。 雑誌の記事や写真で外見や内装を見て結構気に入ってはいたが、実車を見ると期待どおりであった。 3列シートの7人乗りということだと国産車ではスパシオ、イプサム、ストリーム、プレマシー、トラヴィックといったあたりになるが(もっとでかい車は我が家の場合は対象外)、前記のAT問題を除いても「これは」というものがなく、かろうじて初代のイプサム(2代目はでかくなってダメ)、プレマシー、トラヴィックあたりだと許容できるかなというくらいだったが、307SWはハイトワゴンという形状ながらきれいにまとまりつつ個性を主張したスタイルが気に入った。 また内部も独立の7座シート、全席3点式シートベルトといった好ましい特徴を持っていた(上写真で天井から伸びているベルトは2列目中央用のベルト)。 極めつけは 307SWの特徴の1つでもある「パノラミックルーフ」である。 フロントガラスの直後から2列目シート上までを覆うガラス天井の開放感は格別であり、カミさんも2列目に乗ることの多い子供たちも一発で気に入ったようだ(下写真参照)。 ショールームでいろいろと見ていると営業マンが「試乗してみます?」とのこと。 まだ正式発表されるかどうかという時期だったにもかかわらず運良く試乗車があるそうで、さっそく試乗させてもらった。 当然ながらATだったが、事前に聞いていたプジョーのATの癖はちょっとの試乗時間ではあまり感じられず、違和感はなかった。 国産車とはワイパー・ライトスイッチの位置が逆なので、お約束のワイパー誤操作はあったが、これはISOの規格に沿ったものだそうで、国産車の方が逆なんだそうである(どうせ左ハンドル主体の連中の決めたISO規格なので右ハンドルでもそれに合わせるのは本当はどうかと思うが)。 試乗を終えて「非常に気に入った。これでMTがあればすぐにでも買うんだが」と営業マンに言って店を後にした。

    パノラミックルーフ
  6. 転回

     9月の中旬になってブルーライオンの営業マンから「ブレークのMTがあるがどうですか」というメールが入った。 ブレークは対象にしてなかったので最初は読み流したが、よく考えると「ブレークでもMTモデルは導入されてなかったはず」という点に気づき事情を問い合わせたところ「車の形式認定を受ける際に、実際に導入されるモデル以外の同系統モデルも一緒に形式認定を受けるために入ってくることがある」という返事だった。 ひょっとしたら後でモデルを追加したりする時のことを考えてなのかもしれないが、意外な事実であった。 とはいえ、5人乗りのブレークではコロナから乗り換える意味が薄い、ということでこの件には乗らなかった。
     9月下旬、ちょっと長めの出張で東京にいたところ再度営業マンからメールが。 「307SWのMTが1台だけあることが判明しました。 2.0Lで色はアルミナムグレー(シルバー)」。 平行輸入も検討せざるをえないか、と思っていた矢先のこの話、この機会を逃すわけにはいかない、しかし安い買い物ではないし資金繰りのこともある、ということであわてて自宅に連絡をとりカミさんに聞くとあっさりと「グレーなら無難でいいんじゃない」との返事。 まだ1.6Lモデルの追加の可能性がなくなったわけではないが、そちらにMTモデルがある保障はない。 しかもこの様子だと2.0LモデルでMTが出る可能性は限りなく低い。 ということでほぼ即座に決断して連絡することにした。 メールとか悠長なことは言っていられないとばかりに、急いで営業マンに電話をしてとりあえず現車を確保してもらうように依頼する。 この返事がくるまでは気になって仕事も実が入らないような状態であったが、何とか無事確保できたとの連絡があり、出張が終わって帰福してから詳しい詰めを行うことにした。 正式な導入モデルではないためにこの時点では値段も正確には出てなかったのによくやったものである。

  7. 納車

     帰福したのは10月に入ってからでありブルーライオンに行けたのはさらに1週間ほどたってからであった。 やっと値段もATモデルの10万円引きと判明し、無理やり資金繰りもつけて、何とか正式に契約することができた。 ついでに日本導入モデルとは内装の色が違うということで、似たような内装の307を見せてもらったり、307のMTモデルに試乗させてもらったりしてできるだけの確認作業をすませ、後は納車を待つばかりである。 10月中には手続きができる、とのことだったので納車日を11月2日に設定してもらった。
     いよいよ11月2日当日、思い出の残るコロナSFから付属物以外の荷物を降ろしブルーライオンへ乗り付ける。 コロナ君、長い間どうもありがとう。 納車の説明をいろいろとうけた後、家族全員で乗り込んで家路につく。 さすがに緊張したが何とか無事帰宅した。

  8. インプレッション

     さて、実際に乗ってみての印象を書いてこの文の最後としよう。 全体の印象から言うと非常に満足している。 特に気に入っている点をあげる。

    一方で多少の問題点もある。

    まあ、いずれも細かい点なので、7人乗りのスタイリッシュな車にMTで乗れるということを考えると問題にはならない。 実際 307SWの SWはスポーティワゴンの略と考えてもいいくらいである。 今のところ外車特有の不具合というものにはほとんど出くわしていない。 シートの1つの背がきちんと固定できなくなってしばらく入院していたのが唯一の問題くらいであり(残りの6座あればほとんど困らない)、こういう意味ではアタリの個体なのか、それともプジョーの品質も上がったと思うべきか。 (ネット上ではいろいろ不具合が出て困ってる事例もまだまだあるようだが。) 次もMTを買えるという保障はないし、今後もできるだけ長く307SWとつきあっていきたいものである。