FITS の拡張の手順

現在 FITS の規格は IAU の FWG (FITS Working Group) が決定権を持っている (1988 年の IAU 総会による)。 2012年の北京でのIAU総会によって IAU の組織再編が進められることになり、2014年には Division A ~ H, J の9つの Division に整理された。FITS に関係するのはそのうちの ``Facilities, Technologies and Data Science'' を扱う Division B となる。2015年には Division B 傘下の Commission の再編が進められ、Commission B2 ``Data and Documentation'' が FITS に関係することとなる(実質的にはそれまでの Division B の Commission 5 とほぼ同様)。しかし、2016年2月の時点では、FWG を引き継ぐ Working Group がどうなるかは決まっていないため、現時点では FITS の規約の扱いは従来の FWG が行っており、ここではそれについて説明する。

2016年2月現在 IAU-FWG の議長は Lucio Chiappeti (IASF, Italy) である(副議長は当面置かず)。任期は 2012-2015 のはずだが、上記の IAU 再編の結果の FWG の行く末が決まっていないため継続している。 FWG のメンバーは計 22名(http://fits.gsfc.nasa.gov/iaufwg/iaufwg.html参照)で日本からは金光理(福岡教育大)が入っている。 FWG 自体が従うルールを決めるのは FWG の EC(Executive Committee) である。EC は既存の明文化されたルールでカバーされていない事項についても決定権を持っている。EC は 7名のメンバーからなっている。FWG の議長(といれば副議長)、前議長、4つの旧地域委員会(北米、EC、日本、オーストラリア/ニュージーランド)の委員長である。IAU の旧 Commission 5 下の Virtual Obervatory Working Group も ECメンバーと考えられている。旧 Commission 5 の議長も伝統的にオブザーバーとして参加する。将来の EC の構成は地理的、分野的、波長的なバランスを取るとともに、主要なデータハンドリング組織のバランスにも配慮して決めるべきだろう。EC は典型的には満場一致をベースに議決するが、必要に応じて単純な多数決(現状では 4/7以上)で議決することもある。

データ構造の開発者が既存の FITS フォーマットにしっくりこない部分がある場合、新たな拡張を開発、提案することができる (もちろん新しい拡張は既存のフォーマットに影響を与えるものであってはならない)。 新しい拡張が正式に FITS の拡張として認められるまでの手順は以下の通りである(http://fits.gsfc.nasa.gov/iaufwg/iaufwg_rules.html)。 (注: 従来の地域委員会が関わる手順は、インターネット時代にそぐわないとしてよりフラットでスピーディな手順に改定され 2014年1月1日から適用されている。)

  1. 【事前準備】FITS スタンダードの定義に影響する新しい提案は、FWGへの提案の前に、fitsbits@nrao.edu メーリングリスト(モデレータのあるML)にポストされ、一般的な FITS コミュニティでのコメントを受けるべきである。場合によってはその話題に特化した ML が作成されて議論されるかもしれない。EC がこうした予備的な議論が収束し、関係者の大部分の合意を得た提案になったと判断したら公式な提案として考慮されることとなる。
  2. 【公開コメント】オフィシャルな承認の最初のステップは、fitsbits@nrao.edu でのパブリックコメント期間を設けることである。この期間に一般の FITS コミュニティメンバーや FWG のメンバーがコメントやサジェッションをする。提案者はここで出たコメントなどに対応した修正を施す。このパブリックコメントの期間は通常 4週間以上取るが、EC は必要に応じて議論が結論に至るまで伸ばすこともできる。
  3. 【EC によるレヴュー】公開コメント期間の後、EC はメンバーに対し投票準備ができているか確認をする。FWG の議長は準備のできていないメンバーがいないか内々の調査をする。これは議論を続けたいメンバーや投票期間に不在のメンバーがいないことを確認するためである。同時にメンバーは投票に対し反対を考えているか(もしそうなら理由)を問われる。もし '反対' の投票を考えるメンバーがいる場合は、EC は正式投票に入る前に全員の満足が得られるような妥協案を得る努力をする。EC は正式投票をするかどうかについて以下のようなファクターを考慮する。
  4. 【IAU-FWG での最終投票】正式な投票の前に議長はメンバーに内々に調査をする。もし 'No' の投票を考えるメンバーがいたり、事前の議長への知らせなく実際に 'No' の投票があったりすると、投票プロセスは満場一致に向けての妥協案の交渉のため3カ月停止することになる。この必須の遅延期間は少数意見が適切に考慮されることを保証するとともに FITS コミュニティが重要な事項について満場一致で同意を得るという伝統を保つためにある。3カ月以内に受け入れ可能な妥協案が達成されない場合は、FWG での投票がそのまま続けられるかもしれない。FWG のメンバーは通常 3週間の投票期間を設けられ、('賛成', '反対', '保留')を議長にメールする。投票が有効に決するには('賛成', '反対', '保留' を合わせて) FWG メンバーの 3/4以上が投票する必要がある。有効投票となったら投票数のうち 3/4以上の'賛成'で承認となる。投票プロセスの確認のため、議長は '反対' や '保留' の投票の日時の確認をできるようにして、同意の投票をしなかったメンバーが自分の投票が確実に記録されたことを確認できるようにする。投票が完了したら、FWG 議長は投票結果を(名前は出さず) fitsbits@nrao.edu に投稿する。提案は FWG で承認されたら即座に効力を発揮し(提案自身に異なる発効時期が明記されている場合を除いて)、FITS フォーマットの公式なスタンダードの一部となる。



Osamu Kanamitsu
2017-02-23