天文現象は長いタイムスパンにわたるものも多く、そうした現象の解明には観測データの交換やアーカイブが問題なくできるように、きちんとした規格でデータを保存する必要がある。 また近年の観測機器は大量のデータを生み出すようになっており、そうした大量のアーカイブを利用するにも共通の規格の必要性は大きい。 こうしたデータの規格には、「互換性」、「単純さ」、「拡張性」、「自己記述性」といった特質が求められ、それに答える形式が FITS である。
FITS は IAU でも正式規格と認められており、現在ではその規格の改訂作業なども IAU の委員会で統括する体制ができている。 しかし、FITS の規格を生んだのは主に欧米の研究者たちであり、以前は FITS に関するドキュメント類も英語の原著文献をあたるしかなかった。 こうした事態を改善するために、日本語で読める簡便な手引きを目指して、この「FITS の手引き」が作成されるようになった。 これはまた、天文情報処理研究会が従来より行っていた各種クックブックや手引き類の出版活動の 1 つでもあった。 最初に FITS の手引きが出版されたのは 1993 年であり、その後、後付にあるように改訂を重ね、第 5 版まで版を重ねることとなった。
今回の改訂では、全体を 3つの部に分け、第 1 部は FITS になじみの薄い初心者を想定して、FITS の導入的な内容をまとめた。第 2 部は FITS 規格の公式文書である FITS スタンダード (NOST standard 100-2.0 に基づく) や、WCS などの正式な規格と関連情報をレファレンスとしてまとめた。第 3 部には「すばる」関係の情報を集め、装置開発者などを対象にした情報や辞書をまとめた。
FITS に関しては現在も基本規約に対する各種拡張等が提案・検討されているし、時間と共に新たな拡張が施されていくのは確実であるので、最新の情報についてはネットワーク上のリソースも参照されたい。
この手引きが天文コミュニティでのデータ流通や機器開発に関するデータ形式の検討の一助になれば幸いである。
(この手引きは FITS の手引き、第 4.1 版をもとに関連各氏の協力のもと、各種インターネット上のリソースを取り入れて編集したものです。
今回の版作成に際して有益なコメントをいただいた 馬場肇、山本文雄、濱部勝、多賀正敏、八木雅文、奥村真一郎、磯貝瑞希 (順不同) の各氏に感謝します。)
天文情報処理研究会 (編集 金光 理, E-mail: ｋａｎａｍｉｔｕ＠ｆｕｋｕｏｋａ−ｅｄｕ．ａｃ．ｊｐ )
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