葉緑素(クロロフィル)は緑色光(550nm付近)をわずかしか、そして近赤外線(700nm〜)をほとんど吸収せず(●)、緑葉をつけた植物群落(植生)の反射率は、緑色光に小さなピークを持つが、近赤外線の波長750nm〜1100nmの方がずっと大きい(●)。太陽光の放射スペクトルは可視光線の方が近赤外線よりやや強いが、それを計算に入れて植物群落と人工物の太陽光反射量を求めても、結果はそれほど違わない。
可視光線下では、緑の植生はコンクリートや枯れた草地よりもずっと暗い(アスファルト並み)が、700〜750nmで急に反射率が上がり、コンクリートよりも明るく、枯れた草地と同じくらいになる。このこと(近赤外線と可視光線での反射特性の著しい違い)によって、樹林とさまざまな景観要素を区別することができる。赤外カラー写真では、可視光線で暗く近赤外線で明るい緑葉は鮮やかな赤に見える。
簡易赤外線写真では池の水面や青空は黒く写る。前者は赤外線が水によく吸収されるため、後者は赤外線が大気を構成する分子による散乱を受けにくいため(●)。雲ではより長い波長の光も散乱されるので、簡易赤外線写真でも白く見え、青空とのコントラストが強調される。
人間の視覚は赤外線を感じることができない。しかし、カメラのレンズは、多少とも可視光線外の紫外線や赤外線を透過し、フィルムやCCDも感受性を持っている。デジカメはCCDとレンズの間に赤外線をカットするフィルターがあるが、それでも、多くの機種は、近赤外線を映すことができる(左の写真では、リモコンユニットの赤外線が紫色の光として見えている)。紫外線/赤外線を含む光源(太陽光線など)下で、可視光線を遮る紫外線/赤外線透過フィルターをカメラに装着して撮影することで画像化することができる。
プリズム(シータスク社製虹プリズム=左)で壁に投射した太陽光スペクトルをRICOH CaplioGXで撮影したもの。左―紫外線透過フィルター(オーエムジー社製UL-360)装着、中―フィルターなし、右―赤外線透過フィルター(富士IR-76)装着。フィルターとの組み合わせにより、菫色光に隣接する近紫外線と赤色光に隣接する近赤外線を撮影することができる。紫外線透過フィルターは赤色光〜近赤外線もわずかに透過している。
このページの写真は、デジカメCASIO QV-3000EX (感度最大・マニュアルフォーカス・シャッター2秒・絞りはF2)に赤外線透過フィルター富士IR-XX(IR-76・86・94)+スカイライトフィルターで撮り、画像処理ソフトで調整している。IR-76では、好条件時に絞りF4・シャッター1/8でも(暗いながら)撮影できた。
IR-XXは樹脂製のフィルム状のフィルター(税込1000円ていど)。76が最も明るく、やや暗いときでも撮影可能でピント合わせが容易だが、赤色光をわずかに透過する。94はその逆で、快晴の正午近く以外ではピント合わせもままならず、仕上がりの画像が荒くなる。86はその中間。
IR-XXを円形に切り取り、スカイライトフィルターのガラス部に密着させ、手で鏡筒に押し当てて(ガラスと鏡筒でIR-XXを挟み込む形になる)撮影。
フィルターが装着出来るRICOH CaplioGXでは、IR-76を4つ切りにしてステップアップリングに貼り付けて、スカイライトフィルターではさんでから装着して撮っている。CaplioGXは鏡筒の内部反射のせいで(?)中央に円形の明るい部分ができる。F値が高いほど明班が小さく明瞭になるため、許容範囲は、絞り開放・広角端寄りに限られる。この欠点を除けば、近赤外線感度が高く、MFが使い易いため、楽に撮影できる。
CaplioGXを使った近赤外線撮影に関する国外のページFUJIFILTERと他社品対応表@FUJIFILTER・irfilter@WJ's Infrared & Photography Homepage・Film and Color Filter Spectral Curvesの記述からまとめると、次のように推測される。
Kodak (Wratten) | 透過1%未満 | 50%透過 | 87%以上透過 | 対応するFUJIEILTER |
88A | 710 (nm) | 750 | 800 | IR-76 |
87 | 740 | 795 | 1060 | IR-78 |
87B | 820 | 930 | 1060 | IR-94 |
緑葉の太陽光反射量は700nmから750nmにかけて急上昇し、800nm以上では緩やかに低下する。1100nmでは半分以下になってしまう。このことを考慮すると、可視光の遮断にこだわるならIR-78(かあるいはIR-80)の方がよいが、植生を白く映すにはIR-76が多少可視光も通すとはいえ最適のような気がする。IR-94は緑葉の赤外反射の多く、しかもCCDの感度が残る部分のほとんどをカットしてしまうようだ。
画像処理ソフト[ここではフリーソフトのJTrim(WoodyBells氏)に沿っている]では、次の手順で作成する。
また、デジカメで赤外写真! (林治克氏)からダウンロードできるフリーソフト「赤外写真が出来るンです for Yahoo Camera」(弓場憲生氏)でも同じ画像が生成できる。