葉では、「表」と「裏」が区別できる(外見や内部構造が表と裏とで違う)。このような、いわゆる「表裏がある」ことを、背腹性[dorsiventrality]という。茎は極性がある(先端と基部がある)が背腹性はないことが多い。葉は極性があり背腹性もある。
葉の場合は、表と裏は、厳密には「向軸面」「背軸面」という。
葉の表(向軸面)と裏(背軸面)では、次のような違いが見られることが多い。
緑色 | 光沢 | 葉脈 | 毛 | |
---|---|---|---|---|
表(向軸面) | 濃い | つやつや | 見えにくい | より少ない |
裏(背軸面) | 薄い しばしば白・茶色を帯びる |
ざらざら | 見えやすい (より細かい脈が見える) |
より多い |
葉の裏の方が、種類による特徴の違い(色・脈の見える度合い・毛の種類など)が出やすく、種類の判別に役立つことが多い。
ほとんどの場合、向軸面が上面[upper surface]、背軸面が下面[lower surface]で、上方からの光は表に当たるが、例外もある。
左―単子葉植物のさまざまなグループで見られる単面葉の模式図
アヤメ科に例が多い単面葉[unifacial leaf]では、裏(背軸面)が外に来るように二つ折りになり、内側の表(向軸面)どうしはほとんど癒合している(両面とも背軸面)。
イネ科の一部(ハマニンニク・ウラハグサ・ノガリヤスなど)では、葉が茎の反対側に回り込み、背軸面が上を向くようになる(裏葉; ウラハ)。細長い葉が茎から剥ぎ取られにくいという利点があるのかも知れない。
海岸の砂丘に生えるイネ科のハマニンニク。葉は背軸側の方が色濃く光沢があり、上を向く。
荒れ地に生える帰化雑草であるトゲチシャ(キク科―左)は、直立した茎にたくさんの葉(葉身が直に茎についている)が互生している。葉は最初のうちは普通に上を向いているが、ある程度成長したところで葉の付け根が90°捻れて、葉面が横を向くようになる。右向きによじれるか左向きによじれるかはまちまちで、規則性は見出せない。この場合は、葉の表・裏とも横を向くことになる。
葉身の上面から下面へと、次のように組織が積み重なっている。
柵状組織と海綿状組織をあわせて「葉肉」[mesophyll]という。維管束(葉脈)は葉肉の中央を通る。葉肉の細胞では細胞膜近くに葉緑体がたくさん並ぶ。
ソーセージ形の細胞が縦にぎっしりと並ぶ柵状組織に対し、海綿状組織では細胞の外形や配列はもっと不規則だ。細胞間のすきま(細胞間隙)は、柵状組織よりも海綿状組織にもあるが、後者でより大きな容積を占めている。細胞間隙を満たす空気は表皮にある気孔を通じて外気とつながっている。光合成に必要な二酸化炭素は気孔をくぐり、細胞間隙を通って細胞に達する。
表(向軸面)と裏(背軸面)の表皮では、細胞間隙がなく、表面にクチクラ層がある。表が裏よりつやつやしているのは、表皮のクチクラがより厚いためだ。気孔は葉の背軸面にのみある場合(ヒサカキなど)と葉の両面にある場合(コメツブツメクサ・セイヨウタンポポなど)がある。
樹木の葉では、柵状組織と海綿状組織の違いや境界がハッキリとしているのがふつうだが、草本ではもっと違いが微妙で、例えば、柵状組織でも細胞間隙が非常に大きい。また、両者の境界もあいまいなことが多い。
双子葉植物の葉では、主脈・側脈の太い維管束から分岐した細い維管束が分岐と合流を繰り返して網状となる。
木部と篩部の並びは、茎の維管束の配置を保っており、
表=向軸側=中心側: 木部
裏=背軸側=外周側: 篩部
となる。木部や篩部は繊維を含んでいるので、維管束は葉の骨組みの役割も果たしている。
維管束が通っているところは、その分葉緑体が少ないから、色の薄い筋=葉脈[leaf vein]として見える(あるいは、葉を透かしてみると透明な筋として見える)。トベラ・タブノキのように、表皮と維管束の間に葉緑体のない厚壁細胞が並ぶ場合には、光に透かすと細かい葉脈までよく見える。モチノキ・ヤブツバキ・ヒサカキのように、維管束と表皮の間に葉緑体のある柔細胞があれば、光に透かしても太い葉脈だけしか見えない。前者を「透視性がよい」、後者を「透視性が不良」といい、葉で種を判別するとき、目印の1つとなる。
葉の色の基本は光合成色素、とりわけ量の多いクロロフィルの緑だ。しかし、葉から光合成色素を抽出すると、元の葉よりもずっと鮮やかで透明感のある色合いになる。
これは、細胞間隙の空気、他の細胞内含有物、表面のワックス粉や毛が色にさまざまな「味付け」をするためで、同じ理由で、植物の種類や時期によって緑の色合いが微妙に異なる。
細胞間隙(空気)と細胞質(水溶液)との境界面でさまざまな色の光が反射・散乱され、光が葉緑体を通過する回数を増やして吸光率を高める(特に、クロロフィルの吸光率が低い緑色光の捕捉に有効)。細胞間隙での反射・散乱は、葉の色に不透明感を与え、また、細胞間隙が多い組織は気泡が白いのと同じ理由で白みを帯びる。
これらのことによって以下のような事実が説明できる。
「濡れ葉」「茹で野菜」に近い状況を作るために、葉片を入れたビーカーを密閉容器内で強制脱気すると、細胞間隙の空気が膨張して細胞間隙に納まらなくなり、気泡となって葉の外に出る。細胞間隙には水が入るため、反射や散乱が抑えられ、葉の緑は透明感を増し、表と裏の色の違いも目立たなくなる。
ドクダミ(ドクダミ科)の葉。裏は白っぽい。左2つが脱気していない葉片、右2つが脱気した葉片。上段が表、下段が裏。ドクダミの葉は表が暗緑色、裏が白緑色だが、脱気後はどちらの面も鮮緑色になる。 | ドクダミの葉の透視。左半分は細胞間隙の空気が抜けており、右半分は残っている。光の透過性が大きく違う。 |
葉の一部に他の部分と色が違う模様があることを斑入り[leaf variegation]という。ハンゲショウ(ドクダミ科)やマタタビ(マタタビ科)、シロツメクサ・ムラサキツメクサ(マメ科)の葉表に見られる白い斑は、表皮の下に大きな細胞間隙があって葉肉の緑色がマスクされることによるため、葉裏には斑がなく、光に透かすと斑は見えなくなる。
園芸植物の斑入りには、葉肉細胞に葉緑体がないことによるものが多く、葉を光に透かしても斑はそのまま見える。また、黄色味を帯びていることが多い。 斑入りのツルニチニチソウ(キョウチクトウ科) |
ツワブキ(キク科)の斑入り品 |
温帯域の秋は、紅葉と黄葉による「秋色」[autumn colors]で彩られる。
落葉前の樹木や枯れる前の草に見られる黄葉は、クロロフィルが分解されて茎や地下部へと回収され、カロテノイド色素(カロテン・キサントフィルなど)が残った状態の葉だ。
アミノ酸から赤いアントシアニン色素が合成されて液胞に貯えられると、葉に赤色が加わり紅葉となる。落葉を前にした紅葉は、クロロフィルが抜けて、カロテノイドの黄色とアントシアニンが加わった明るく澄んだ朱色に近い赤だ。
紅葉に至る途中で、アントシアニン合成がクロロフィルの分解に先んじることもあり、クロロフィルの緑と重なって暗い赤~赤紫になる。
ヤマザクラ(バラ科)の紅葉(左―葉表・右―葉裏)。クロロフィルがない黄色・明るい赤とアントシアンとクロロフィルとが重なる暗い赤が混在する。 |
ナンキンハゼ(トウダイグサ科)はクロロフィルの分解とアントシアニン合成のタイミング、また、アントシアニン合成の有無がまちまちで、暗赤~明赤~黄のさまざま紅葉/黄葉を見せる(左―葉表・右―葉裏)。 |
常緑樹でも落葉前の紅葉・黄葉は見られるが、短期間で一斉に葉が落ちる落葉樹と比べると目立たない。
落葉前の他にも、
(1) 展開中の若葉
(2) 草本の越冬葉
(3) 葉の裏面(地面に広がる葉や水面に浮かぶ浮葉)
など、さまざまな種類・場面で葉(や茎など)の色にアントシアニンの赤が加わることがある。クロロフィルの緑と重なって暗い赤や赤紫になることが多い。
秋の紅葉も含め、葉がアントシアニンを作ることの利点としては、大きく分けて2つの説明が考えられている。
展開中の若葉や越冬時の紅葉には前者が、秋の落葉前や葉裏の紅葉には後者が有力だが、食害防御のメカニズムや、種類による紅葉の有無を分ける要因など、解明されていない点も多い。
アントシアニンは、茎を赤く色づけることも多く、さまざまな花色の要素ともなっている。