両性花で雌性期と雄性期が移り変わるときには、「花粉が出始める/出つくす」「柱頭が活性を持つ/しおれる」といった単純なオン/オフだけでなく、オンになる器官とオフになった器官の位置関係が変わることが多い。その結果、オンになる器官は花粉媒介者に近づき、オフになった器官は遠ざかる。前者を「送受粉の場」への「登場」、後者を「退場」と表わすことができる。
花粉媒介者の通路を強制するような複雑な形状の花では、オンになる器官が通路に突き出し、オフになった器官は通路から外れる。もっと単純で花粉媒介者がランダムに動くような花では、オンになる器官が高く突き出し、オフになった器官はそれより低くなる。
「登場」「退場」をもたらす過程は、器官の成長・萎縮・脱落・運動(開閉・屈伸・立て伏せ)と植物によってさまざまだ。
最も単純なパターンは、オンになる器官が成長して(アオカズラなど)、または立ち上がって(タブノキなど)、オフになった器官を追い越すものだ。オフになった器官の方では、特別な変化は起こらない。単純な形状の雌性先熟花に例が多い。
アオカズラ(アワブキ科)。雌性先熟。花糸が伸長して花柱を追い越すと、葯から花粉が出る。雄性先熟の花では、花粉を出し終わると葯がしなびるだけでなく、葯が花糸から取れたり(カノコソウ)、雄しべが丸ごと取れる(ホウセンカ・ヤブガラシ・ヤツデ・セリ科の多く)例が多い。
花柱の先端が開くことで柱頭が「登場」する例は多い(キク科・キキョウ科・リンドウ科・ゲンノショウコ・クサギ)。それと比べると少ないが、伏せていた花柱が立ち上がるもの(シャクなど)もある。花糸が立ち上がって葯が「登場」する例(タブノキなど)は上で出てきた。
「退場」では、花柱は花の中心に向かって伏せ(シキミ・サバノオ)、花糸は逆に花の外側へ伏せたり(ハルリンドウ・オボロヅキ)、反り返る(カノコソウ)ことが多い。
クサギは、花柱と花糸が連動して屈伸運動をすることで、雄性期から雌性期へと移行する。ハナミョウガは、花柱の屈伸で雄性期・雌性期の切り替えを行う。
雌性期・雄性期の移行に連動して花被に変化があるものもある。雄性先熟の花では、雌性期に花被が脱落するものがある(ヤブガラシ・セリ科とウコギ科の多数の種)。雌性先熟の花では、雄性期に移るときに花被が成長したり、もっと平たく開くものがある。どちらも、花の直径が「雄性期>雌性期」になる。
ヒメチドメ(セリ科|ウコギ科)花ではないが、トウダイグサ属の杯状花序でも、花序の苞葉が雄性期には成長して、雌性期よりはっきりと大きくなる。蜜の分泌量も雄性期の方が多いように見える。