「食べられる」ことは、ほぼ全ての植物が直面し、生存と繁殖に大きく影響する現象だ。植物、特に葉や茎の特徴の中には、「食べられること」を防ぐため、あるいは被害を少なくすると思われるものが多い(前で述べたように、秋の紅葉もアブラムシの食害を避ける利点があるという有力な説がある)。
生物が他の生物を食べることを食害/捕食/摂食[predation]、食べられる(食害を受ける/捕食される/摂食される)ことを被食という。
食べる側をプリデーター(プレデター/食害者/摂食者)[predator]という。植物を食べる摂食者を植食者[phytophagous predator]といい、草食者/葉食者[hervivore]・果実食者[frugivore]・種子食者などに細分される。
内部や表面に住みついて栄養を奪うことを寄生[parasitism]といい、奪う方の生物を寄生者(パラサイト)[parasite]、奪われる生物を宿主(ホスト/寄主)[host]という。寄生による植物の被害を病害(植物病害)といい、病害を起こすパラサイトを病原体[pathogen]、病原体の寄生が始まることを感染[infection]という。
「食べる―食べられる」の関係は、摂食者が属する生物群の分類学的多様性、摂食が行なわれるスケールの大小、摂食のスタイルなど、多様性に富んでいる。従って、摂食に対抗する植物の特徴も非常に多様だ。
摂食者は脊椎動物からウイルスまでさまざまなグループに属する。パラサイトでない摂食者では、主なものだけでも、脊椎動物、昆虫や陸生巻貝などが挙げられる。パラサイトには、菌類・バクテリア・ウイルス・原生生物(特に卵菌類)などの微生物、昆虫・ダニ・センチュウなどの小型動物が含まれる。
食害のスケールという点から見ると、シカの食害のように森林や草原の風景を一変させるスケールの大きなものから、潜葉虫のように1枚の葉の中で完結するものもある。
1970年代からシカ・イノシシ・ニホンザルの分布範囲が広がるとともに生息密度が上がる傾向が報告され、農業被害やダニ・ヒルの増加などの問題が散発していた。1980年代後半になると、シカの増加によって植物群落の被覆率や種組成に大きな変化が生じる現象が全国各地で起こるようになり、2000年ごろには、希少植物の絶滅要因となっていることが明確になった。
シカの数が増加すると、植物群落からシカが好む植物(嗜好植物)が姿を消す。
さらに密度が高まると、樹木の低い枝が姿を消し、林床は土が露出した光景となるか、少数の強い忌避植物だけが茂る単調な環境になる。
高密度地域では、シカから植物を保護する柵の設置や駆除等の対策がされているが、新たな分布拡大も報告されている。
「食べ方」も千差万別で、全体を選り好みをせずに食べる動物もいれば、セルロースの少ない若い葉や軟らかい葉を好んで食べる動物、葉をまるごとではなく葉脈や表皮の堅い部分を避けて食べる動物もいる。また、セミやカメムシ、アリマキは、口吻(筒になったくちばし)を突き刺して篩管から液体を吸収する。
植物を食べるにあたり、植物体の多くを占めるセルロースの消化に体内や体外の共生微生物を使う植食者は多く、個体数も莫大で、生態系の物質循環でも大きな比重を占めることが多い。反芻動物(シカやウシなど; 共生者はルーメン内微生物)・シロアリ(消化管内微生物または菌園の菌類)・ハキリアリ(菌園の菌類)などが挙げられる。
寄生性の微生物(菌類・バクテリア・ウイルスなど)では内部への侵入過程に多様性が見られる。菌類の一部では、植物表面の水滴や泥などに付着した胞子が発芽し、菌糸が特殊なしくみによってクチクラと細胞壁を貫通して入り込む。クチクラ・細胞壁を破ることが出来ない多くの微生物は、気孔や、昆虫の食害等によって出来た傷・穴から侵入する。クチクラなどによる植物表面の撥水性が水を弾くウイルスには、アブラムシのような吸汁昆虫が媒介者となるものも多く、口吻によって篩管内へと送り込まれる。植物表面の撥水性や異物に反応した気孔閉鎖は、微生物の侵入に対抗する。微生物の侵入に対しては、細胞レベル・分子レベルのさまざまな対抗手段が知られており、植物病理学の分野で活発な研究が行なわれている。
寄生によって、宿主の形態にはさまざまな変化が起こる。
寄生操作の例として最もしばしば見られるのは葉・茎・芽の組織の異常肥大(ゴール[gall])で、昆虫の寄生による場合は虫こぶ(虫癭/虫えい ちゅうえい)と呼ばれる。多くの場合、異常成長した組織は肉厚になり、空洞や巻き込みによって外部から遮断された空間が形成され、天敵から守られ十分な餌に囲まれた寄生者のすみかとなる。
寄生者が宿主植物の花序や花の形成を妨げることもある(寄生去勢[parasitic castration])。有性生殖に養分が費やされない分、寄生者が収奪できる養分が増えることになる。
ムラサキケマン(ケシ科)の葉裏に散らばるサビ胞子堆キケマン属(ケシ科)では、サビ菌(菌類)に感染した茎は花序をつけなくなって有性生殖能力を失い、一方で葉が高い位置につくようになる。サビ菌にとって、前者は栄養の吸収に、後者は胞子散布に有利となる特徴だ。ファイトプラズマ(ゲノムサイズが非常に小さく細胞壁がないなどの特徴を持つバクテリアのグループ)に寄生されたヒメウズ(キンポウゲ科)の花茎も、同じようにひょろ長く直立して花の代わりに数枚の葉をつける。
寄生操作のうち、動物の宿主の行動や形態が操られる場合は、古くから多数の例が知られており、新しい例の報告も相次いでいる。
寄生操作は、大変インパクトが強く知名度も高い現象だが、それだけでなく、多様な生態系やグループに普遍的に存在して進化や生態系に大きな影響を与えているのではないかと考えられている。
寄生操作する寄生者に寄生して寄生操作することを「超操作」[hypermanipulation]という。米国南東部に分布するカンオケバンニンバチは超操作の例で(Weinersmith & al. 2017)、カシ(ブナ科)の若枝に虫こぶを作るタマバチに寄生する。寄生されていないタマバチは羽化後に虫こぶの壁に穴を空けて外に出るが、寄生されたタマバチは小さ過ぎて脱出できない穴を空け、頭部が穴に嵌まり込んだ状態で死亡する。タマバチより小形のカンオケバンニンバチは、タマバチの頭部を食い破って穴から外へ出る。タマバチに「空けさせた」穴を使って虫こぶから脱出することで、カンオケバンニンバチの生存率は自力で穴を空ける場合の4倍になる。
食害/寄生の多様性に対応して、食害/寄生を避けるしくみも、ミクロレベルのしくみ(ここでは扱わない)を含めて、きわめて多様だ。
植物は、グループや種類によって異なるさまざまな物質(二次代謝産物)を合成し、その中に食害を防ぐはたらきを持つものが含まれる。タンニンや蓚酸カルシウムのように食物としての質を下げるものから、アルカロイド・青酸・精油(匂いがある揮発性の有機化合物)などの「植物毒」と呼べるようなものまである。
タンニンと食害の関係は、森林で大量に落下するために生態的な重要性が高いブナ科の果実(ドングリ・クリなど)で多数の研究がある。濃度が低い果実が食害動物に好まれる例(ex. Smallwood & Peters 1986)、高濃度の果実を給餌すると生存率が下がる例(Shimada & Saitoh 2003)、濃度が高いことで菌類の侵入が妨げられる例(Takahashi et al. 2009)などが知られている。
実害がある濃度の植物毒を含む植物は身近にもきわめて多く、特にアルカロイドによる食中毒はけっこうな頻度で起こっている。ジャガイモ(ナス科)のソラニン、イヌサフラン(ユリ科|イヌサフラン科)のコルヒチン、ヒガンバナ科のリコリン、トリカブトのアコニチンなど。クワズイモやマムシグサ類(ともにサトイモ科)では、葉柄やイモ、果実に含まれる多量のシュウ酸カルシウム結晶が口の中や消化管にダメージを与えて食中毒になることがある。
クスノキ(クスノキ科)の葉の断面(パラフィン切片像・サフラニン―ヘマトキシリン―ファストグリーン三重染色)。柵状組織や海綿状組織にある大きな空洞は、精油を貯える大型の細胞で、「精油細胞」と呼ばれる。クスノキの精油は防虫作用がある樟脳(しょうのう)の原料となる。
人間は古くから植物毒を「毒」として狩猟・漁獲や戦闘に使ってきた。また、用法・用量を調節することで「薬」として用いる例も無数にある。ジギタリス(ゴマノハグサ科|オオバコ科)の毒性成分は強心剤として、ベラドンナやハシリドコロ(ともにナス科)の毒性成分(アトロピン)は散瞳剤や麻酔薬などに、古くから使われてきた。トリカブト類(キンポウゲ科)の地下茎は生薬「附子」(ぶし)として用いられる。
動物にも、植物毒を「毒」または「薬」として使うものがいる。天敵から身を守る「毒」として使う動物は、昆虫で多数の例が知られている。ジャコウアゲハ類(食草ウマノスズクサ科ウマノスズクサ属: アルカロイドのアリストロキア酸を含有)やマダラチョウ類(食草キョウチクトウ科ガガイモ類: アルカロイドを含有)は、食草に含まれる毒を身体に貯える(たいていは、派手な色彩と組み合わさっている)。マダラチョウは、成虫もピロリジジンアルカロイド(PA)を微量含む蜜を出す花から好んで吸蜜し、PAを天敵からの防御と性フェロモンの両方に使う。哺乳類では、アフリカタテガミネズミが毒のある樹皮を噛み砕いて有毒成分の溶け込んだ唾液を体側の毛にしみこませる(Kingdonら 2011)。
「薬」として使う動物も報告されている。毒性がある植物を積極的に食べて体内の寄生虫を駆除する行動は、多数の哺乳類やヒトリガ類の幼虫(毛虫)で知られており、チンパンジー・ボノボ・ゴリラで最も研究が進んでいる(Huffman 2003, 2012; ハフマンら 2000; Singerら 2009)。
食害や感染による傷害が起こった時点で発動する化学的防御もさまざまな植物で知られている。傷害を受けた植物体ではジャスモン酸(JA)がすばやく生合成され、タンパク分解を妨げる物質(食害者の消化を妨げ、食物としての質を下げる)や感染抵抗性を持つ物質の合成など、多面的な防御反応を引き起こす。また、メチル化して揮発性のジャスモン酸メチル(MeJA)となり、周囲に発散して隣接する植物の防御反応を誘発するとともに、食害者の天敵を引き寄せる。
トゲは大型の動物に、毛と粘着帯は小型の動物に対して効き目が大きい。
トゲを持つ樹木には、背が低いときにはたくさんのトゲをつけるが、成長するにつれトゲの数が少なくなる(またはつけなくなる)ものが多い。
イネ科のように細長い葉をもつ植物では葉縁に鋭いトゲが並ぶ例が多い(鋸歯と見なすこともある)。トゲの先端が葉の先端方向を向く場合が多く、葉の基部へと進む食害者に対する抵抗となる。イネ科では、ガラス質で補強されたトゲによって、葉の基部に囲まれた茎頂と新葉が守られる。
成長中の若くやわらかい葉では毛が密についていて、成長が進んで硬くなるにつれて取れてしまうことが多い。
シロダモ(クスノキ科)の若葉は毛に覆われて白~金色に輝くが、成長するにつれてほとんどの毛が取れてしまう植物体表面の粘液は、昆虫のような小形食害者の動きを妨げる。ムシトリナデシコ(ナデシコ科)では、茎の一部が粘液が滲み出す粘着帯となっている。ノアザミ(キク科)では花序を囲む総苞片が粘液を出す。腺毛によって弱い粘着性を帯びた茎や葉は、多数の植物で見られる。
枝や葉が損傷を受けた断面から、テルペン類などの揮発性成分を含む粘液(樹脂/レジン[resin])が滲み出る種類もある。樹脂は昆虫や微生物を物理的に拘束するだけでなく、化学的防御に関わる物質を含む。典型的な樹脂は透明で黄色~褐色を帯びており、揮発性成分がなくなると固まって「ロジン[rosin]」と呼ばれる。
裸子植物球果類は樹脂の量が多く、特に、マツ属から採取される松脂(松ヤニ[pine resin])は、揮発性成分(松テレピン油[pine turpentine])が溶剤などに使われ、ロジンの方は粘性・可塑性を生かした多様な用途に使われる。そのため、単に「ロジン」と言うときは松脂のロジンを指すことが多い。
イタドリ・アカメガシワ・サクラ・ホウセンカ・ヘチマなどでは、葉柄や葉身のつけねにイボ状の突起やクレーター状の丸いくぼみがある。これらの突起やくぼみは、特に若葉や若枝では、蜜を分泌し、花外蜜腺[extrafloral nectary]と呼ばれる。
フヨウやオクラ(アオイ科)では、萼片のつけね向軸面から蜜が出る。花の外側に分泌されるので、広い意味では花外蜜腺に含めることができる。
花外蜜腺には蜜を集めるアリが見られることが多い。また、アリの種によっては、他の巣のアリに奪われないように蜜腺に常駐することもある。葉の基部にアリがいることは、食害昆虫の移動や摂食を妨げると考えられている。
→ 花外蜜腺
樹木の葉の裏面の葉脈分岐点には、小さな空洞(クスノキなど)・ポケット状の構造(ホルトノキなど)・細かい毛の茂み(ヤマボウシなど)など、微細な生物の「隠れ家」になるような構造(ドマティア[domatia])がある。これらにはダニの住居・産卵場所として使われることが多いので、「ダニ室」と呼ばれる。ダニ室には食害をするダニがいることもあるが、他のダニを捕食するダニが住んでいることもある。
クスノキ(クスノキ科)の葉の基部。脈の分かれ目のところが膨らんでいる。裏側には小さな穴があり、中にダニが見える。草食性哺乳類が多い場所では、低く地表付近に広がる草形が見られる種もある。
全草でなくても、頂端分裂組織が地表すれすれの低いところにあると、食害を受けても分裂組織が残って再生できる可能性が大きい。多年生のイネ科草本にはこのような特徴を持つものが多く、アフリカのサバンナ[savanna]や放牧地など草食性哺乳類が多い場所では、強い食害圧によってイネ科が優占する草原が広がる。
花や果実の数は、気候や日当たりの変化によって同じ個体であっても年毎に変わる。しかし、中には、一見説明がつかないほどの極端な変動をする植物がある。
タケ・ササ(イネ科)[bamboo]の多くは、数十年の寿命をもち、種によって決まっているとされる(マダケなどでは120年に及ぶといわれる)。寿命が来るまで開花せずに成長を続け、最期の年に地下茎に貯えた栄養の全てを費やして開花・結実して枯死する。1つ1つの笹原や竹藪は、数十年に一度、全てが一斉に開花・結実して大量の種子を生産し、枯れてしまう。
ブナやナラ(落葉性のコナラ属)では、2年から数年に一度、多くの個体が多数の種子をつける「豊作年」がある。豊作年の間に凶作年(多くの個体が種子をあまりつけない)と並作年(豊作年と凶作年の中間)が入る。このような、個体どうしが同調して豊凶の繰り返しことをマスティング[masting; mast seeding]という。
東南アジアの熱帯雨林では、1年から数年ごとに多数の樹種が種ごとに時期をずらしながら一斉に開花する現象が知られている(竹内 2014)。
毎年ある程度コンスタントに開花することと比べて、年毎に開花数が極端に変動することにどのような利点があるのかには、さまざまな説明があるが、主要なものは以下の2つだ(Kelly 1994, Kelly & Sork 2002)。
これらの仮説は、大量開花の年とそうでない年で種子の食害率や結実率(花が果実となる割合)を比較することで検証できる。しかし、簡単に想像できるように、膨大な時間・労力か大変な幸運(またはその両方)を必要とする。